第20話 女の子同士で結婚してもいいじゃない

リナリアに想いを伝える。


そうと決まれば話は早いけど、その方法に関しては一考の余地があるというもの。


今すぐ伝えたい思いをグッと堪えて、どういう風に伝えるかを考える。


(夜景の見えるレストランで優雅に……いえ、ないわね)


まず、夜景の見えるようなレストラン自体のハードルが高すぎるのが問題なのだけど、今世の私なら余裕で出せる額ではある。


でも、リナリアは庶民派のヒロインちゃんなので無理をさせる可能性の方が高いし、これは無しだよね。


というか、今のは完全にプロポーズの場面想像していたのだけど、私って実はかなり重い女なのかもしれないわね。


そういえば、前世で親友の瑞穂に好みのタイプとか付き合った後のことを語ったらよく言われたなぁ……『百合根は面倒くさくて重いタイプだよね』と。


割と容赦ない親友の一言だけど、自覚はあるのでまあ、気にはしない。


それに、実際に付き合ったことはないからね!


……いえ、別に相手が居なかったのではなくてよ?


というか、昔から男の子に興味が薄くて、リアルな女の子も友達感覚が強くて、二次元の女の子に興味が大きかったからこそ、縁遠いものだったのかもしれないと今なら思える。


初恋だって、前世と今世でリナリアが初めてだし、そう思うと私ってかなり変なのかも。


まあ、それはいいとして。


「困ったわね……」

「どうかしましまか?」


紅茶を淹れつつも、私の言葉に振り向くリナリア。


……本人の前でこれを考えてる時点で私ってばダメな子オーラ半端ないわね。


「いえ、いきなり婚約解消と爵位の授与で少し考え事をしてたのよ」

「凄いですよね、国王陛下も認めるカトレア様のお力……私はどこまでもカトレア様に着いて行きます」


……それ、プロポーズと取っても?


いえ、この子の場合純粋にそう思ってくれてるのでしょうし、邪推は禁物。


「そうね、リナリアが居るなら私も頑張れそうだわ」

「ふふ、カトレア様ったら」


冗談ではなく、マジな本音だけどリナリアは私の中の自分の存在の大きさに気がついて無いので仕方ない。


とりあえず、私だけだと答えには辿り着けないでしょうし、こういう時は誰かに相談するのが最も良い答えに行けるかも。


私はリナリアの紅茶を飲みつつ誰に話すかを考えて……新しい茶葉に驚いてから、それを半分忘れてリナリアと談笑するのであった。





「相談ですか?」

「はい、お母様にどうしてもと」

「そうですね……私に答えられることなら構いませんよ」


最初に聞くのは最も頼れるお方であるお母様だ。


ジャスティスやジュスティスはこの方向で聞くには少しベクトルが違いそうなので、同じ女性としてお母様の意見は大切であった。


「では、お母様。お父様にプロポーズされたら嬉しいシチュエーションを教えてください」

「……カトレア、それは本当に大切な相談なのですか?」

「はい、とても大切です」


本気と書いてマジと読む私の瞳にお母様は戸惑いつつもぽつりと言葉を漏らしていく。


「えっと……素敵な景色のレストランでのプロポーズも良いですが、お城でのパーティーの合間に抜け出して、噴水近くで二人きりで月に祝福されながらもプロポーズもまた……カトレア、何故顔を逸らすのです?」

「……いえ、お母様は素敵な女性だと心底お父様が羨ましいなと」

「……か、からかうんじゃありません」


ヤバい……お母様がぐうかわ。


きっと巷で流行っている恋愛小説に憧れているようで、乙女の表情をしたお母様を見てたら、萌えが強くて思わず顔を逸らしてしまった。


それに、その後で自分の発言を思い出して照れたように顔を背けるのがまた可愛くて……お母様ってば、お父様とお似合いですね。


とはいえ、意外とお母様と思考が似ていると分かったのは収穫かもしれないわね。


「カトレア、何かあったのですか?」


突然のこんな質問だったからだろうか?


ふと、何か感じたようにそう尋ねてくるお母様。


「いえ、強いて言うなら私が想いを告げたい相手のために勝手にあれこれ迷走してる最中です」

「……そう。私も旦那様も何があっても貴女の味方だから、もし何かあったなら遠慮なく言いなさい」


優しく頭を撫でてそう言われれば、自然と「はい」と頷いてしまう。


……お母様、母性高すぎませんか?





「相談?」

「お忙しいのにすみません。お邪魔ならお時間の空いた時にでも……」

「……いや、構わない。話すといい」


折角お母様の萌えを確認したので、お父様に報告も兼ねて相談に行くと、相変わらず無愛想ながらも娘に甘々なお父様であった。


「では、お父様。もしお母様にもう一度プロポーズするのならどんな方法を取りますか?」

「……」


黙り込んでしまうお父様。


あれ?タブーだったかな?


「……そういえば、してなかったな」


私が困惑していると、出てきたのはそんな言葉であった。


そういえば、甘々な二人の様子に忘れかけてたけど、二人は政略結婚なのでそういったプロセスがなく結婚になったんだよねぇ。


「その……なんだ。アザレアが何か言ってたのか?」


少し不安そうな表情で逆にそんな事を聞かれてしまう。


ふむ……


「いえ、特には。ただ今からでも遅くはないかと。お母様はお父様から愛の告白をされれば、益々夫婦円満に繋がりやすいかと」

「……そうだな、子が生まれてからでも行うとしよう」


そういう即決即断が出来るお父様ってば、素敵です。


気がつけば、私はリナリアへの告白、プロポーズのシチュエーションの相談のつもりが、お父様からお母様への愛の告白のプランニングをしていたけど、ひと仕事終えた達成感はあった。


二人には永遠にラブラブで居てほしいしね。





お父様のお仕事の邪魔をしないように、お父様からお母様への愛の告白のプランニングが終わるとそそくさと私は部屋を出ていく。


本来の主旨はまるで果たせてないけど、いい仕事した感は強かった。


やっぱり、ラブラブはいいねぇ。


「あ、ライナさん」

「カトレア様。どうか致しましたか?」


本日はお母様付きではいのか、洗濯カゴを持っていたリナリアの母親のライナさん。


私としては本命の母親なので是非とも意見は聞きたいと声をかける。


「少し相談があるのだけど、お時間大丈夫?」

「ええ、今から休憩ですから。……何か内密なものですか?」

「いえ……そうね、出来れば二人きりがいいわ」

「では、私の部屋に」


そうして、案内されたのは住み込みの使用人さん達の部屋のある棟。


少し離れにあるそこは、多くの使用人の自室があるのだけど、ライナさんの部屋にはリナリアも良く来てるようで色々とリナリアのものもあって少しドキドキしてしまう。


変態みたいだけど、愛なので勘違いなきよう。


「それで、ご相談とはリナリアの事ですか?」

「……凄いわね。よく一発で当てたわね」

「母親ですからね、それに最近のお2人を見てれば分かります」


なるほど、やはりライナさんは凄い。


というか、もしかして……


「……気づいているのね」

「ええ、カトレア様は以前からリナリアのことを可愛がってくれてましたけど、最近は少しそれに変化があったようでしたので」


……アカン、想い人の母親にバレてた。


「まあ、リナリアからの話も含めたら誰にでも分かるでしょうけどね」

「その……止めたりするかしら?」

「いいえ、娘もカトレア様のお傍を望むのなら止めたりはしません。でも、本当にリナリアで良いのですか?」

「リナリアだからいいのよ」


確かに最初は『ヒロインちゃん可愛い!』くらいのノリだったけど、気がつけば私はリナリアに魅了されて、恋に落ちていた。


リナリアでいいのか?ではなく、リナリアじゃなきゃダメなのだ。


「そうですか」


私の気持ちの籠った返事に、ライナさんはくすりと微笑むとゆっくりと頭を下げた。


「娘のこと……よろしくお願いします」

「はい、お任せを」


変に思われるどころか、娘の幸せを願うその姿は……形は違えど、お父様やお母様の優しさに近かった。


この人がリナリアの母親で心底良かったと私は思った。


「ただ、孫の顔が見れないのは少し残念ですがね」

「ご心配なく、ちゃんとその辺も考えてますので」


その後、多少回り道でも私の考える手段が最も効果があるとライナさんに教えられたのだけど……なんというか、お母様もライナさんも凄くて、私もこんな人達みたいになりたいと初めて思ったのであった。




「リナリア、出掛けるわよ」


数日後、準備を終えて私はリナリアを誘っていた。


「えっと……何か急用ですか?」

「いいえ、違うわ。息抜きと大切な話があるのよ」

「わ、分かりました……」


よく分からなくても頷く愛しのリナリアさん。


怪しい人に連れ去られないようにこのピュアな娘を守らねばという衝動に駆られるけど、とりあえず一度落ち着こう。


リナリアの出掛ける準備が終わり、一緒に馬車に乗ると向かうのは王都から少し離れた場所にある百合の花の群生地だ。


この時期に咲いてるのかと問われれば、何故かこの時期にだけ咲く雪百合という品種があるらしく、今日が見頃なのも確認済みであった。


「わぁ……!綺麗な花ですね!」


現地に着くと、リナリアはその光景に嬉しそうにはしゃぐ。


私も実は少し驚いていた。


一面、雪百合の花が咲くそこは幻想的な風景を描いており、私の理想に近い場所でもあった。


うん、やはり間違ってなかったよ。


「花言葉って知ってるかしら?」

「確か、贈る花で意味が違うやつ……でしたよね?」

「ええ、その通りよ」


私のメイドに相応しくなるために、リナリアが慣れない貴族の習慣の勉強などをしてたのは知ってたけど、庶民にはあまり広まってない花言葉のことも知っていたらしい。


「百合の花言葉は、『純粋』とか『無垢』なのよ」

「そうなんですか」


ほへぇーっと、タメになったという様子の可愛いその子はまさに『純粋』や『無垢』が似合う。


「ええ。でもね、百合の花には色によって別の意味に変わることもあるのよ」

「色……ですか?」

「そう。例えば白百合ね。これには『純潔』とか『威厳』って意味もあるのよ」

「何だか、カトレア様にピッタリですね」


私としてはそんな事はないと思うけど……でも、そう思われたなら話を持ってきやすいかな。


「私は、百合の花言葉はリナリアにピッタリだと思うけど、リナリアは私に白百合の花言葉がピッタリだと思ってくれたのね」

「わ、私そんなに純粋じゃないですよぅ……」


いえいえ、無垢でとてもキュートです。


などといつもの様に愛でそうになるけど、我慢して続ける。


「ここに連れてきたのは、私がリナリアに自分の気持ちを伝えたかったからよ。私は本気でリナリアと百合の花言葉は親和性が高いと思ってるわ」

「そ、そうですか……」


「えへへ……」と、照れ気味にはにかむリナリアが実に可愛くてヤバい。


とはいえ、まずは想いを正直に告げないと。


すぅと、息を吸うと私は勇気を出して告げた。



「リナリア――私は貴女のことを愛してるわ」



その言葉は真っ直ぐにリナリアへと伝わる。


照れていたリナリアはその私のストレートな告白に驚いてから、困惑したような表情も浮かべた。


「そ、それは……私のことを、そう思っていると……受け取っても……?」

「ええ、そうよ。私はリナリアのことを女の子として愛してるわ」

「……じゃあ、あの時の……ドラゴンの時のも……」

「そう、本気で貴女のを愛してるから出た言葉よ」


全てに肯定する私にリナリアは顔を赤くしてから……ポツリと呟いた。


「私なんかが……カトレア様の一番の隣でいいのですか……?」

「なんかじゃないわ。私はリナリアだから傍に居て欲しいのよ」

「私とカトレア様は女の子同士で、私は平民ですよ?なのに……」

「関係ないわ。それら全て分かって、私はリナリアを選んだの」


真剣なその答えにリナリアは俯き答える。


「……嬉しいです。私もカトレア様は同じ女の子なのに、凄く胸がドキドキして……だから……」

「リナリア。まずは私に告げさせて」


答えを聞く前に、私はゆっくりと深呼吸をしてから、そっとリナリアの前で膝を着くと、懐から白金の指輪を取り出して――心からの気持ちを込めて言った。



「私と結婚してください――リナリア」



数瞬の間の後、こくりと頷いたリナリアに私は婚約指輪を左手の薬指に嵌める。


「まだ成人までは婚約者だけど……私は何がってもリナリアを守る。ずっと傍にいるわ」

「はい……私も……カトレア様のことを……」


ギュッと大切そうに左手にある指輪を包み込むと、リナリアは少し涙を浮かべながらも笑顔で言った。



「ずっと――お慕いしておりました」



その言葉に……まるで、祝福でもするかのように風にまい百合の花が複数空を舞う。


その幻想的な空気を大切に、私はそっとリナリアを抱きしめていた。


リナリアはただ嬉しそうにそれに答えてくれて凄く幸せだった。


不安もあるだろう、女の子同士、平民と私からしたら大した問題でなくても、リナリアからしたら大きいそれでも、リナリアは私の想いに答えてくれた。


だから、それらは私が片付ける問題で……少なくとも、リナリアの抱いてる不安の要素はほぼ全て解消済みなのはそのうち証明していくとしよう。


今はただ、このリナリアとの時間を大切にしたい。


そうして、その日――私とリナリアはお互いに想いを通わせ合い、晴れて婚約者となったのであった。


まあ、あれだよね。


リナリアさん可愛すぎて、しばらくその場でちょっとじゃれあったのは仕方ないよね?


可愛いとは罪だなぁ……
















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