第2章
第21話 新しい日々
「カトレア様、今日はチーズケーキを作ってみました」
「あら、美味しそうね」
リナリアに告白orプロポーズして、私とリナリアとの関係は婚約者へと変化した。
それで大きく何かが変わったかと言われると、多少変化はあれど、私のリナリアへの想いは日々増していた。
今日も甲斐甲斐しくお世話をしてくれるリナリアは、手作りのお菓子を振舞ってくれて、その左手の薬指には私の贈った婚約指輪がその存在感を表していた。
それを見れば、リナリアが私の物になったのだと実感出来てニヤけてしまいそうになるけど、凛々しいカトレアさんを今日も私は意識する。
「今日も魔法の研究ですか?」
「ええ、最近は時間が増えて助かったわ」
転生レオン、王太子殿下との婚約解消により、私のスケジュールには多少の余裕が出来たので、その時間をリナリアとの憩いの時間と魔法の研究に当てていた。
そういえば、さり気なくあのブラコンは王太子の座を弟であるロメリオ殿下に渡して、しかもロメリオ殿下の婚約まで発表していた。
私には決まっていた出来レース、茶番にしか見えなかったけど、私が王太子の婚約者の座を降りてから、水面下でその座を巡る静かな争いもあったみたいだけど、国王陛下の決定に異議を唱えるのは無謀というもの。
その決定に黙る貴族達に、追い打ちをかけるように、ロメリオ殿下の有能さを証明する数々の功績がサラリと公表され、もはやその座は揺るがなさそうであった。
まあ、それら全てあの転生レオンのシナリオ通りなのは私としては呆れてしまうけど、私も転生レオンも目的はほぼ達成に近づけたので悪い結果ではなかった。
そんな訳で、私は多少煩わしい事から開放されたのだけど、爵位を貰ったことでまた別の煩わしい仕事が増えたけど、今のところは領地などもなく平和だ。
ただ、将来的には領地を王国の直轄地から譲られる恐れがあるようなので、それに関しては出来れば小さな村とかで手を打てないか交渉中であった。
「あまり無理はしないでくださいね」
リナリアからの優しい言葉。
日々忙しい私への労いが心に染み入る。
「ええ、リナリアとの時間も必要だもの。その辺は分かってるわよ」
そう、私は正式に婚約者となったリナリアを愛でたいので、その辺はちゃんと分かってスケジュールをこなしていた。
魔法の研究も、必要で楽しいけど、やっぱりリナリアとの時間は何よりもかけがえのないものなので、しっかりと取ることは忘れない。
「あら……今日はコーヒーなのね」
「はい、まだまだ勉強中ですけど、おおよそ淹れ方は理解出来ました」
この前のデートで城下に行った時に、喫茶店で久しぶりコーヒーを飲んでから、お父様にさり気なく頼んでいたのだけど娘に甘々なお父様はそんなワガママに答えてコーヒー豆とかを取り寄せてくれたらしい。
しかも、リナリアさんってば、コーヒーの淹れ方までマスターしたとは……私のお嫁さんは実にパーフェクトなヒロインちゃんですね。
「そう、流石ね」
「いえ、カトレア様に少しでも美味しいものをお出したいので出来ることはしたいのです」
……やだ、健気過ぎじゃないですか?
こんな子を私のものに出来たのは奇跡すぎるけど、来世でもリナリアと結ばれたいものだ。
転生か……その魔法の研究も進めるのもいいかもしれないわね。
「ふふ、本当にリナリアは良い子ね。ご褒美をあげないと」
「ご、ご褒美?」
「ええ、リナリアにだけの特別なご褒美よ」
それ即ち、イチャイチャでありまする。
こうして、理由をつけてはリナリアを愛でるようになった私は、プロポーズ前よりも積極的になってるはずだけど、リナリアは恥ずかしそうにしつつも受け入れてくれていた。
ちょっと私にイジメられるのが悪くないと思ってる節もあるので、Mさんの気配が若干感じられて、私はますます愛でてしまうけど……リナリアが可愛いから仕方ないわよね?
ーーー
「カトレア、何か問題はないか?」
「はい。今のところは。これもお父様のお陰です」
リナリアを愛でて、魔法の研究ばかりしてられたらどれだけ良いだろうかと思いつつも、私は一応公爵令嬢だしやる事もある。
しかも、子爵の位を貰ってしまったことで、王太子の婚約者だった頃とは別の仕事も発生したのでそちらはお父様と相談しつつ進めていた。
「……そうか、ならばいい」
相変わらず少し不器用な所があるお父様だけど、私の言葉に少し嬉しそうな様子を見せるのは実に萌えた。
「お父様、ありがとうございます」
「……何がだ?」
「私とリナリアの事です」
実は、お父様には事後報告になったのだけど、女の子同士、平民の女の子のリナリアと婚約した事にお父様はかなりすんなりとOKを出してくれた。
まあ、勿論説得材料も用意はしてたのだけど、それを含めてもすんなり過ぎて頼んだ私自身が驚いた程だった。
とはいえ、そんな寛容なお父様に感謝しかないので私は日頃の感謝も含めて言葉にする。
すると、お父様はそれに相変わらずのご様子で答えた。
「お前が決めたことだ。親として応援をするのは当然だ」
名門公爵家の当主としては甘い判断にも思えるけど、お父様も子煩悩ばかりでなく、きちんと先を見据えつつも私の意志を尊重するから凄いと思う。
なるほど、お母様が惚れるわけだと思ったけど、私はファザコンとマザコンの気が微妙にあるのはこれらの要因が主な原因かと思われる。
あとは、未だに新婚のような微笑ましい感じがある二人が実に萌えの塊なのも要因かも。
「ありがとうございます。私はお父様とお母様の娘になれて幸せです」
だから、私は素直な気持ちを言葉にする。
「――――」
その言葉に目頭を抑えるようにして顔を背けるお父様は実に涙腺が緩いけど、それだけ私は愛されていたのだと思えば嬉しくもなる。
本当に萌え萌えなお父様ですよ。
お父様の執務室を出ると、ふらっと、導かれるようにして厨房へと向かう。
公爵令嬢である私は本来ならそちらに用事はなく、また控えめに言っても料理が下手な私には縁遠い場所だけど私は別の目的でそちらに来ていた。
「慣れてきたな、嬢ちゃん」
「料理長のご指導のお陰です」
そこでは、多くの料理人が作業をしており、私の姿を見ると一礼してから作業に戻る。
常連になりつつあるので、お仕事の邪魔をせずに入口から様子を覗くと、リナリアが我が家の料理長から料理を習っていた。
「それにしても、一度でほとんど覚えるから教えることはあんまりないな」
「いえ、そんな事は……」
「謙遜するなって。ウチの若いのより才能あるぜ。まあ、お嬢様のお気に入りだから引き抜けないのが残念だがな」
ご機嫌な料理長のセリフにリナリアは少し嬉しそうだった。
その様子を見守る私は、きっと変質者にも見えなくないはずだけど、カトレアさんたる私に死角はない。
気配を消して、静かにしていれば目立つことなく見守れる。
……ストーカーじゃないわよ?
むしろ、リナリアが私に着いてきてくれるからストーキングの必要性は低いしね。
「もっと美味しく出来るようにしないと……カトレア様のためにも」
グッとやる気満々なご様子のリナリアは、私の婚約者になる前から頑張ってたようだけど、最近は更に家庭的なスキルを身につけようと奔走していた。
私に無理をするなと言っておきながらも、頑張りすぎるリナリアは真面目で可愛いけど、それをちゃんとコントロールするのも私の役目。
「リナリア、ここに居たのね」
偶然を装って厨房へと入ると、気づいていた料理人たちは苦笑気味で、料理長も何とも楽しげであった。
でも、それを口にしないのは流石は公爵家の料理人たちだとお父様の功績を称えながら、リナリアに近づくとリナリアは驚いた表情を浮かべてから、隠すように作っていた品をワタワタと体で私の視線から遮る。
……あの、可愛すぎでは?
「か、カトレア様。何かご用でも?」
「ええ、リナリアの顔が見たくて探してたのよ。忙しかったら後にするけど……」
「い、いえ!大丈夫です!」
子犬が嬉しそうにしっぽを振る姿をリナリアに幻視する。
犬耳か……悪くないわね。
でも、リナリアは猫耳の方が似合うかしら?
動物パジャマとか作らせて着させるのもありかもしれないわね。
「そう、じゃあ行きましょうか」
「あ……はい!」
リナリアの手を取って、歩き出すとリナリアは驚きつつも嬉しそうな表情をで頷く。
そんな私とリナリアを見て、微笑ましげな料理人たちだけど、一部の若い人が何やら私とリナリアの様子を観察して『いいネタが手に入った』といった様子なのは少し気になったけど、まあそれはそれかしら。
なお、その若い料理人が庶民向けに女の子同士の恋を本に描いていたことを知るのはだいぶ先の話であり、この時の私は知る由もなかった。
まあ、知ってたら発売を急がせていたかもしれないわね。
リナリアの手を引き、廊下を進むと、私とリナリアの関係に関して、最初は驚きつつも、今では何気に順応してくれた使用人さんたちの温かい視線を感じる。
「あら。お義母様、御機嫌よう」
「カトレア様、リナリアとお散歩ですか?」
そして、私がスカウトしたのにお母様にいつの間にか取られたリナリアの母親のライナさんは、今から休憩なのか自室に戻ろうしていた。
「ええ、少し気分転換にね」
「そうですか。でも、その呼び方は屋敷では控えめにした方がいいですよ」
「善処するわ」
リナリアの婚約者になったので、ライナさんを『お義母様 』と呼ぶようになったけど、一応公爵令嬢なのでライナさんは気をつけた方が良いと言ってくれた。
その忠告は受け取りつつも、人目が無いときなら問題ないと私は知っているので、人目のない今は絶好のチャンスとも言えた。
「リナリアは厨房帰りかしら?」
「な、なんで分かったの?」
「ふふ、カトレア様に美味しいもの……食べて欲しいものねぇ」
「もう!お母さん!」
ポカポカと可愛らしくイジられた事に対する抗議の攻撃をするリナリアだけど、威力が弱すぎて実に微笑ましかった。
それにしても、流石はお義母様だ……リナリアの可愛いを引き出すのが上手い。
いえ、リナリアは常に可愛いけど、こういう母娘の触れ合いは素晴らしいわね。
似てるから更に良いのかもしれないけど、やはり美人な母娘のこういう触れ合いは見ていて心が安らぐので、微笑ましい。
「ふふ、ごめんなさいね。そういえば、カトレア様、ジャスティスさんが探してましたよ」
「ジャスティスが?」
「ええ、急ぎではないようですけど、念の為にお伝えしておこうかと」
「そう……ありがとう、助かるわ」
「いえいえ」
母娘揃って、本当に要領が良いというか、家庭的な上に仕事もできて、しかも可愛いという完璧な母娘なのは本当に凄いと思う。
「あの、ジャスティスさんの元に行くのでは……?」
ライナさんを見送ってから、再びリナリアと歩き出すと、リナリアは困惑の表情を浮かべた。
向かっている先は明らかに私の自室なので、先程の話的にジャスティスの元でないのが不思議なのだろう。
「いえ、急ぎでないなら、リナリアとの時間を優先したいのよ」
「そ、そうですか……」
最近は私がグイグイ行って、リナリアがこうして照れるのも見慣れてきたけど、何度で攻めても慣れないこの子の初さは可愛すぎですわ。
「そういえば、また新しいレシピ届いたから後で渡すわね」
「本当ですか?ありがとうございます!」
転生レオンとの手紙のやり取りは残念ながら今も続いていた。
向こうとこちらは利害の一致もあり、色々と裏で手を回して損は無いので仕方ない。
でも、タダでは協力はしないので、向こうが料理チートで広げるものに関しては軽くレシピなども受け取っており、その見返りに試作の私の作った魔道具を渡したりもしていた。
私と転生レオンは利害だけは一致しておりお互いの持っているカードに関してはシェアする必要もあるので仕方ないとはいえ、リナリアに隠れてやり取りするのは嫌なので、リナリアには私と転生レオンの手紙の存在を知らせていた。
まあ、機密事項は見せないけど、お仕事ですよという文面にリナリアは心底ホッとしていて、それもまた可愛い。
「えへへ、頑張るぞー」
控えめにやる気満々なご様子のリナリア。
新しいレシピにワクワクしているのと、私に美味しいものを食べさせたい気持ちが伝わってきて凄く愛おしい。
本当にリナリアは可愛いなぁ……そのうち食べちゃいたいよ。
まあ、もっと可愛くなるし焦ることなくリナリアとの時間を育まないとね。
そんな事を思いながら、リナリアとの時間を過ごす。
本当にリナリアはキュートでエレガントざます。
もっと愛でたいので、やる事はきちんとやりつつ頑張ってこの時間を増やそうと密かに決意するのであった。
リナリアさん……マジ最高!
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