第17話 ドラゴン襲来

「はぁ……緊張しました……」

「お疲れ様。凄く良かったわよ」


別の喫茶店で一休みすると、リナリアが先程の緊張を思い出したのか一息つく。


「もう、カトレア様。いきなりは凄くびっくりしましたよ……でも、よく私の好きな曲を知ってましたね」

「ええ、リナリアの事なら何でも知ってるわよ」

「うぅ……相変わらず、ずるいです……」


ごめんね、それだけ私がリナリアガチ勢なのよ。


「でも、良かったのですか?アンコールに応えないで飛び出して来ちゃって」

「あら?歌いたかった?」

「そ、それは……カトレア様と一緒なら勿論喜んで……ですけど……」


私とのデュエットが予想以上にお気に召して頂けたご様子のヒロインちゃんのリナリア。


ゲームでは、主題歌を歌ったり、作中でも何度かそういった場面があったので、元々歌自体は好きなのだろうけど、そういえば誰かと歌っていた様子は無かったかも。


「私もリナリアと歌えて楽しかったわ。でも、皆の歌姫よりは私だけの歌姫で居てほしいわね」

「はぅ……か、カトレア様が望まれるなら……」

「ええ、そう願うわ」


無論、歌うなとは言わない。


でも、デビューしたりプロになって私の元から離れるなら、私も連れて行って欲しいという意味合いも強かったりする。


凄く独占欲が強いけど、私としては私だけのリナリアであって欲しいのだろう。


随分と強欲になったものだと自分でも驚いてしまう。


それだけ、リナリアが可愛くて大好きなのだろうと納得のいく答えは出ているけど、それ以上にやはり私はリナリアを深く愛してるのだと実感できた。


うん、簡単な事だよね。


「それにしても、あのカップルの女の子達仲直り出来たみたいで良かったわ。リナリアの歌のお陰ね」

「カトレア様の歌の力でもありますよ。でも……やっぱり、あの人達って、その……女の子同士の……なんですよね……?」


途中少し聞き取りにくい声量ではあったけど、リナリアの問いの内容に関して鮮明に聞き取れた。


女の子同士でカップルもあるのかと、どこか期待するようなそれに、私は優しく微笑むと頷く。


「ええ、間違いなく恋人同士ね。まあ、愛には性別は関係ないのでしょうね」

「カトレア様は気にならないのですか……?」

「ええ、好きになったら関係ないもの」

「でも、その……女の子同士だと、赤ちゃんが……」


子孫繁栄は生き物として生まれた以上、必要不可欠なものであるし、この世界では特にそれが顕著な所もある。


同性愛では子供が作れないというのが、一般的に否定する連中の口癖であった。


個人的には、くだらない言いがかりにも思えるけど。


「養子でも別に良いと思うわよ。家族というのは血の繋がりだけではないし。それに、その辺はそのうち心配無用になると私は考えてるから」

「そ、そうなんですか……」


少しホッとしたようにはにかむリナリア。


それは、まるで自分にもチャンスがあるのかもと安心したように見えて、ますます可愛い。


やっぱり、リナリアさんは天使だよね。


「でも歌は良いわね。防音設備の整った部屋にカラオケルームでも作ろうかしら」

「からおけ?」

「そうね……さっき曲が流れた魔道具とマイクがあって、室内で歌える環境のことかしら」

「それは凄いですね」


聞き慣れぬ単語が出る度に、どこか違和感のあるイントネーションで問いかけてくるリナリアさんは中々にいいものだ。


貴族になった今世だからこそ出来る、自宅でカラオケ。


前世でも、自宅でカラオケというのはあったけど、やはり機器や防音設備なんかと一般家庭での環境下では限界もあったので、その辺をクリア出来るのは嬉しい。


「あ、でもリナリアが掃除の時に口ずさんでるのも私は好きだから、是非それは続けてね」

「み、見られてましたか……」


「あはは……」と、照れながらはにかむリナリア。


まあ、ご機嫌な時に歌ってしまうのはある意味仕方ないものだしね。


それに、リナリアの場合はちょっとした鼻歌ですら綺麗な旋律なので聞いていてとても癒される。


前世では、音痴とまではいかずとも、そこまで歌が得意でも無かった私からしたら、その辺も天才としか思えない片鱗を持つリナリアは本当に凄いと思う。


よくよく考えると、治癒魔法持ち、家庭的で料理上手、歌が上手い、心根が優しい、可愛い、抱きしめたい、美少女……ヒロイン要素の塊なのがリナリアだよね。


乙女ゲームのヒロインとはここまでハイスペックなのかと舌を巻くけど、そんな所も素敵なのがリナリアさんだと私は思う。





喫茶店で少し休憩をしてから、私とリナリアは街を歩く。


少しだけ雲行きが怪しくなる予感のある雲が遠くに見えつつも、至って平和な一時である。


「カトレア様、何かやってますね」


広間にて、人が集まっているのが見えた。


何かの催しだろうかとリナリアと共に首を傾げつつ近づく。


「あら、手品ね」

「わぁ、凄いですねぇ。帽子から鳥が出てきました」


魔法という不思議な力があるので、それを活かした手品かと思っていたのだけど、予想以上に本格的な手品をしていて驚いたわ。


勿論、種も仕掛けもあるはずの手品だけど、初見では見破れる人が少なそうな見事な手品だった。


少し多めにおひねりを出してから、リナリアとその場を後にする。


「あ、カトレア様、あれ美味しそうですね」

「クレープかしら?いいわね」


色んな屋台の並ぶ中、如何にも転生レオンが広めてそうなクレープの屋台を数件発見したけど、美味しそうなので寄ってみる。


「どれも可愛くて、迷います」


むむむと、可愛らしくメニューを見つめるリナリアの横顔を見ながら、私は無難にチョコバナナを頼んでおく。


すると、リナリアは迷いに迷った末に、いちごミルフィーユカスタードという選択を選んだ。


「姉妹かな?仲良しでいいね」


屋台のお姉さんからそんな風に微笑ましそうに言われる。


私とリナリアでは、美少女のベクトルが正反対なので、姉妹に思ったのが少し不思議だったけど、一夫多妻もあり、腹違いの姉妹も珍しくないからこその感想なのかもしれない。


あとは、私とリナリアの様子から友達よりは姉妹もが近いと思われたのかも。


そう言われてみると、愛らしい妹を見守る姉役に私が見えなくも……まあ、無くはないかな?


その姉妹発言に、リナリアが少し驚いてから悪くないという様子で笑みを浮かべたのを私は確かに見た。


……いいの?その場合は私はきっとリナリアと、マーリン的な意味での姉妹になるけど……うん、これはきっと受け入れてくれるね!


なんて、アホなことを考えつつも、近くのベンチに腰を降ろして、クレープを食べる。


お店でも食べたのに、まだ食べれるのだから、甘いものは別腹とは誠に真実なのだろう。


「美味しいわね」

「ですね」


ニコニコと美味しそうに食べるリナリア。


ふと見れば、頬っぺに少しクリームがついていた。


「リナリア、そのまま」

「ふぇ?」


驚くリナリアの頬を拭くと、最後にその柔肌を指でなぞってから、ペロリと触れた指先を舐める。


「はぅ!か、カトレア様、何を……」

「少し残ってから。でも、うん、美味しいわね」

「うぅ……い、言ってくだされば、分けましたよ……?」

「そう?なら、私のもあげるわね」


私はがクレープを差し出すと、リナリアは恥ずかしそうにしつつも、抵抗せずにその小さな口で一口食べる。


「美味しい?」

「……はい、凄く」


照れながら頷くリナリアに頬ずりしたい衝動が沸き起こってしまうけど、なんとか我慢できた。


可愛いとは周りへの影響力も半端ないものなのだなぁと、私は思ったわ。


「じゃあ、私も貰うわね」

「はい、どうぞ」


差し出されたクレープを、そのままパクリと行こうかと思ってから少し考えて、私はあえてリナリアが口をつけていた場所を選んで一口。


もぐもぐ……うん、美味しい。


「あわわ……」


またしても間接キスをしたことにより、リナリアは沸騰してしまったようだ。


可愛らしく赤くなるその様子は最高にキュートである。


「美味しいわね。リナリアから食べさせて貰うと何倍も美味しく感じるわ」


比喩ではなく、間違いなく愛情という最高のスパイスが効いていたのだろう。


本当に罪な味だよ……まあ、美味しいからいいけどね。


それにしても、今世は本当にカロリー気にせず食べてるなぁとしみじみ思う。


前世は結構太りやすかったので、美少女体質のカトレアさんの体は乙女的なは素晴らしさしか感じない。


つり目で強気に見えるのがちょっとマイナスに思える人が居るだけで、カトレアさんに転生出来るとしたらきっとかなりの倍率であったはず。


なお、リナリアも沢山食べても太らない真の美少女体質らしく私としてはそこでも完璧なのかと惚れ直す。


ぽっちゃりなリナリアも悪くないと思える辺り、正しく私は病的にリナリアを愛してるのかもしれないわね。


まあ、悪くないけど。


むしろ、この新鮮な気持ちが凄く楽しくて、伝えるさじ加減を間違えないようにするのは多少骨だけど、それでも思うのは、やっぱり好きという気持ちは凄くいいものだということだろう。



「良かった、綺麗に食べれたわ」


大切なリナリアから貰ったマフラーを汚してないことに少し安堵する。


先程もクレープに付かないようになんとか綺麗に食べれたので、カトレアさんのスペックはやはり本物なのだろうと確信する。


「あの、それ付けてきてくれたんですね」


そんな事を思っていると、リナリアが今更ながらもマフラーについて触れてくる。


デート開始からずっと触れなかったのは、恥ずかしさもあってかな?


だとしたら、ますます可愛いけど。


「ええ、凄く温かいし嬉しい贈り物だわ」

「良かったです……あの、もっと上手くなったらカトレア様に最高の物を贈りますね」


向上心を忘れてないこのストイックな姿勢。


高みにを目指す理由が私のためと思うと、これほど愛おしいと思えるものなのだと驚いてしまう。


やっぱり、リナリアさん素敵。


「ええ、楽しみにしてるわね。でも、私はこの今マフラーも一生の宝物にするけどね。リナリアからの大切な誕生日プレゼントだから」

「カトレア様……」


うるうるとした、実に感動しているご様子のリナリアさん。


その潤んだ瞳で、キスを迫られたら答えてしまってもおかしくないけど、流石にキスは早いかしら?


まあ、私としては心で繋がれることが最高でもあるけど、最終的にはリナリアの全てを私のものにしたいという野望も密かにある。


この可愛いを体現した天使を私だけのものしにしたい……きっと、リナリアが好きなら誰でも同じことを思うと思う。


あと、リナリアを私に依存させたい。


ヤンデレリナリアさんを見てみたいので、その辺の育成も頑張らないと……でも、私が積極的になり過ぎると逆に遠のくかしら?


愛でたいけど、やり過ぎもよくない……難しいなぁ。


個人的には、リナリアは笑顔がすごく似合うけど、私を独占したくてヤンデレ化したリナリアも見てみたい気持ちがあった。


まあ、それでリナリアが傷つくようならやらないけど。


あくまで、平和的にヤンデレ化は目指すべきであり、いつもの可愛いリナリアが私は特に大好きなのでまずはそれを堪能したいものだ。


『――――――』


そんな事を思っていると、遠くから微かに変な音が聞こえた気がした。


『――――――、――――――』


リナリアは気がついてないので、気の所為かと思ったけど、二度も聞こえれば空耳としては少し過剰だろう。


それに、近くに居た高位の冒険者らしき人も同じように聞こえた方角を睨んでいたのできっと勘違いではない。


そう思い、覚えた索敵魔法で反応を探ると思わず私は驚いてしまう。


内包する魔力量が尋常ではなく、しかも大きさも規格外な化け物が物凄い速度でこちらに向かってきていた。


嫌な予感がする。


「ジュスティス!」

「はっ!」


私の呼び掛けに、隠れて護衛してくれていたジュスティスが飛び出してくる。


リナリアが可愛らしく驚いている中で、私はそれを愛でたい衝動をなんとか抑えて指示を出す。


「ヤバいのが近づいてきてるわ。すぐに国と、騎士団と魔法師団に遣いを出して。それと、この場をすぐに離れるわよ」


デートを途中で切り上げるのは無念でしかないけど、そんな事を言えない存在が接近しつつあると分かれば、優先すべきはリナリアの安全。


近くの兵士と冒険者に対抗出来るのが居ればいいけど……とりあえず国には早めに遣いを出すに限るだろう。


「承知しました。それで、ヤバいとは具体的には――っ!」


その言葉の途中でジュスティスも目視出来たのだろう。


遠くから王都に向かってきている、その巨大な怪物……ドラゴンの存在を。













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