第13話 故に私は溺愛に走る

これまでの気持ちが嘘だとは思ってない。


リナリアを可愛いと思ってたし、愛しく思っていたけど……今のこの気持ちはそれを遥かに上回ってしまった。


本気も本気、私はリナリアにガチ惚れしたのである。


「あれ?カトレア様、起きてましたか」


いつもなら、夢の中にいるはず時間帯。


年々朝には弱くなっている私なのだが、昨夜はそもそもリナリア事で頭がいっぱいであまり寝てなかったりする。


しかし、リナリアのことを考えると、ほとんど寝てないのに不思議と体は軽かった。


そして、私を起こしに来たリナリアを見た瞬間――愛おしさが込み上げてきて思わずそれが溢れ出る。


「おはよう、

「え……?」


何故驚いたのか、一瞬不思議に思ったけど、リナリアを呼び捨てにしたのが原因だとすぐに分かった。


これまで、無意識に抑えていた、リナリアへの気持ちの抑制の一つ……リナリアさんとさん付けで呼んでいたのだが、もうそれは出来そうになかった。


「か、カトレア様……今、私のこと……」

「嫌だったかしら?」

「い、いえ!とっても……嬉しいです……」


「えへへ……」と、実に嬉しそうにはにかむリナリア。


いつもなら、それを内心で可愛いと悶えそうになる程度だけど……今の私にはそれでは満足出来ないようであった。


「リナリア、こっちにいらっしゃい」

「はい」


素直にやって来たリナリアを、私は優しく抱きしめる。


ふわりと優しい香りが鼻腔をくすぐる。


抱きしめたリナリアは、小さく細く、そして柔らかい……不思議と抱きしめる度にその気持ちは強く強くなっていく。


「ふぇ!?か、カトレア様、これは……?」

「ふふ、リナリアは温かくていい匂いがするわね」

「か、嗅がなでくださぃ……」


赤面しながら、潤んだ瞳のリナリアだが、逃げ出す気配はない。


その可愛さに私は我慢出来ずに耳元に囁くように言った。


「リナリア……私ね、決めたの」

「何を……でしょう……?」


色々と混乱状態のリナリア。


その目には戸惑いと動揺と嬉しさと恥ずかしさ……色んな感情が混じっているようだけど、私はそれらを全て理解した上で本心を告げる。


「もう、我慢を止めようってね。だから……覚悟しなさい」

「はぅ……」


私の腕の中で実に可愛い反応をするリナリア。


あぁ、もう!可愛すぎでしょ!


これまでだって、リナリアの可愛さは十分伝わっていた。


だけど、こうして私のガチ度が上がると、その魅力がこれまでよりも遥かに上がったように思える。


この少女の全てが愛おしい……本気でそう思えるのだから、私はリナリアのことが本気の本気で大好きなのだろう。


生まれて初めての初恋。


前世でさえ、二次元にさえ可愛い以上は芽生えたことのないこの気持ち。


とっても不思議だけど、昨日までと見える景色が違って見える。


恋をすれば人は変わると言うけど……なるほど、これがそうなのかもしれないわね。


朝食までの間、私はリナリアを愛でることに傾倒するけど、リナリアはそれを恥ずかしそうに赤面しながらも受けて入れてくれていた。


リナリアさん天使かよ!?


思わずそんな感想すら浮かんだが、元々この子は天使だよねとセルフで納得してしまう。


うむ、リナリアはいいなぁ。






ーーー





「……カトレア、今日はなんというか……偉く機嫌が良さそうだな」


朝食の席にて、お父様がどこか困惑気味に私にそんな事を言う。


ちなみに、お母様は特に気にした様子はなく、お父様や使用人さん達(ライナさんは平常であった)が驚いてる様子であった。


普段の完璧な公爵令嬢カトレアさんとは少し違う、年頃の乙女のような私の様子はそれはそれは違って見えるのだろう。


「ええ、お父様。少しばかり憂いが晴れたので、そうなのかもしれなません」

「そ、そうか……」


どこか腑に落ちない様子のお父様。


正直に話してもいいのだが……流石にまだ早いので私の今後の計画は胸の内に秘めておく。


とはいえ、お母様とライナさんには早めに相談する必要があるかもだけど。


私とリナリアの想いが、もしもの確率でも一つになれるのなら……その時の為にも協力者は必要だろう。


転生レオンを使うのも悪くない。


婚約者としての演技やら向こうの協力を散々してきたのだから、拒否権は無いし、使いやすいわ。


それとは別に、お母様にはもしもの時のお父様説得の切り札としてこちらに引き込んで、ライナさんは純粋に娘を貰うと告げる必要があるので声掛けは必須だろう。


お父様にも話したいところだけど……お父様の中には少なからず貴族としての常識やらがあるし、変なところで真面目なので、説得材料を揃えてから認めてもらうのが最善であろう。


……まあ、娘に甘々なので無くても行けなくはないかもだけど……念の為ね。


そんな私のプランはさておき、とりあえずはリナリアの好感度を上げることに尽力すべきかもしれない。


私の中で、リナリアはもはや特別な存在となり、リナリアの幸せを私は全力で応援する所存。


……あわよくば、その隣に居るのは私であることを狙ってはみるけど、リナリアが拒むなら無理強いはしない。


でも、それは私に振り向かせる努力をしないのとは別なので、アプローチはガンガンかけていく。


リナリアの現在のお心は何とも言えないけど、脈がまるで無いという訳でも無さそうだしね。


うん!希望がでてきた!


実にご機嫌な私を不思議がってはいたが、流石というかお父様は娘に甘いのか、どこか私を微笑ましそうに見守っていた。




ーーー






「あら?」


リナリアとの素晴らしき未来のために、やるべき事は沢山ある。


自室で魔法の研究をしていて、一段落つき、ふと窓の外を見てから私は思わず声を上げる。


「寒いと思ったら……」

「わぁ……雪ですね!」


リナリアも気づいたかのか、実に嬉しそうに窓の外を眺める。


季節は冬といってよく、私の作った燃費のいい暖房系の魔道具が良く売れていた。


私も今、自室で使ってはいたけど……どうやら本格的に冬に入ったらしい。


ふと、私は先日貰った宝物を思い出す。


「せっかくだから、少し外に出ましょうか」

「えぇ?でも、外は寒いですよ?大丈夫ですか?」


私を気遣っての台詞がこんなにも愛おしいのだから、愛とは凄まじいものだ。


「出ると言っても少しだけよ。リナリアも雪は好きでしょ?」

「それはまぁ……」


照れつつも肯定するリナリア。


私のリナリア呼びと、子供みたいにはしゃいでしまうのを自覚してるからこそのその表情は堪らなく愛おしい。


「決まりね。すぐ準備するから、リナリアも何か羽織ってきなさい」

「分かりました」


リナリアが出ていくのを確認すると、私はいそいそと、あまりセンスのないコーディネートの引き出しを頭の中で開いて選んでみる。


中々決まらないけど、あまり時間もないし、外に行くのも少しだけなので断腸の思いで選んで着てみる。


鏡の中の、カトレアさんは相変わらずつり目気味の銀髪美少女であったが、その首元には先日誕生日プレゼントとしてリナリアから貰ったマフラーを着けていた。


不格好な可愛らしい猫が少し目立つけど……これも、リナリアからの想いだと思うと実に心が温かくなる。


そう、外に出たいと言ったのは、このマフラーを有効に使えるタイミングを得たからだ。


マフラー自体は、存在ているのだが、私の着るようなドレスなんかと合わせるのは難しい。


普段着にも難しいし、かといって汚れるような使い方はしたくない。


さて、どうしたものかと思っていたが、少し外に出る時に使ったりするのは全然アリだろう。


「ふふ、可愛い」


鏡を見ながらの独り言である。


ナルシストみたいだが、褒めたのはリナリアの作ってくれたマフラーの方だ。


無論、カトレアさん自身も可愛いとは思うけど……自分自身と思うと愛でる気持ちはあまり湧かない。


こんなに美少女なのに、不思議なものだ。


「カトレア様、準備出来ました……って、ああ!」


部屋に入ってきたリナリアは、私の姿に驚いたような声を上げる。


「あら、リナリア使ってくれてたのね」


リナリアは可愛らしいケープを着ていた。


それは、前に私がプレゼントしたものだが……本当に似合っていて可愛い。


「そ、それは勿論……カトレア様からの大切な贈り物ですから……」


照れながらそんな事を言うリナリア。


私は思わず近づくと、リナリアの手を握ってしまう。


「か、カトレア様?」

「ふふ、可愛いわね、リナリアは」

「ふぇ!?」


正面からの堂々とした私の言葉に恥ずかしそうに視線を逸らすリナリア。


「じゃあ、行きましょうか」


もっと愛でたい……そんな気持ちが湧き出るのを必死に抑えて、激しくならないうちにリナリアを連れて庭の外へと出ていく。


「あ、あの……使ってくださったのですね……」


少し照れが落ち着いたのか、小さく問いかけてくるリナリア。


自分の編んだマフラーが使われて嬉しいような、少し恥ずかしいようなそんな表情が顔には出ていた。


「ええ、とっても可愛いし温かいわ。ありがとう。ところで、これってリナリアが編んでくれたのよね?」


正規品では無いとは分かっていても確認は必要かと思い尋ねてみる。


「えっと、一応そうです。お母さんに教わって、初めて編んだので……あの、迷惑じゃ無かったですか?」


公爵令嬢への贈り物としては難しい品であると思っているようで少し不安げなリナリア。


まあ、私は根っからの公爵令嬢じゃないし、気にする要素は微塵もないのだが……ふむ。


「ええ、リナリアの私への愛情が込められていると思うと、凄く嬉しいわ。まるで、リナリアに抱きしめられてるようにも思えるわね」

「そ、そんな恐れ多いこと……はぅ……」


自分から迫る姿でも想像したのか、またしても赤くなるリナリア。


「あら、これは積もりそうね」


外の雪は意外と重く、明日になっても残ってそうなくらいであった。


「わぁ……!雪だぁ」


無邪気な笑みを浮かべて跳ねるリナリア。


まだまだ子供っぽい所も、実に無垢で私好みであった。


可愛いリナリアの反応を優しく見守っていると、リナリアは私の視線に気がついたのか、照れくさそうに戻ってきた。


「すみません、つい……」

「いいのよ、そういうリナリアも可愛くて大好きだからね」

「うぅ……何だか、カトレア様が今日は凄いです……」


覚醒した私の様子に、翻弄されっぱなしのご様子のリナリアさんだが、むしろ振り回されてるのは私かもしれない。


リナリアの一挙手一投が私の世界に色を付ける。


見える景色まで違うのだから、恋は盲目……なんて言われるだけのことはあると感じた。


恋……か。


恋よりも、愛の方が今は近いかも。


でも、普通の愛では私には物足りない。


もっと、溢れんばかりの……その気持ちで溺れるくらいの愛が欲しい。


なるほど、そう考えると私にあうのは『溺愛』の2文字なのかもしれないと少し納得する。


「自分の気持ちに素直になったからかもしれないわね」


ポツリと呟く言葉は、自分を納得させたが、逆に聞いていたリナリアを困惑されることになった。


「あ、あの、それはつまり……」


もじもじと、実に乙女な顔をしているリナリアさん。


もしかて、私の真意と気持ちに気がついてくれてるのかな?なんて、都合のいい妄想をしてみるけど、世間一般に同性愛はあまり認知されてないし選択肢にない可能性もある。


なので、過剰な期待はせずに、私は外堀を埋めていくべきだろう。


「ふふ、リナリア。雪って白くて可愛いわよね」

「はい……そうですね」

「白さでいえば、リナリアも可愛いけどね」

「そ……そんな事は……それに、白くて綺麗な銀髪のカトレア様こそ、綺麗です!」


……ヤダ、何この子可愛すぎじゃない?


「ふふ、そう……綺麗ねぇ、ありがとうリナリア」

「あ……はふぅ……」


ぼふんっと、顔から煙でも出るように赤くなるリナリア。


私は可愛いという話をしてたのに、私の事を綺麗と言ったのは、本心からの言葉だったのだろう。


本当にリナリアは嘘がつけないのかもしれない。


この無垢な存在を私色に染めたい気持ちは……我ながら少し邪なのかな?


でも、好きな人は自分色に染めたくなるよね?


少なくとも、私はリナリアを自分色に染めたい。


……いや、メイドにしてから何気に自分色にしてきてるから、下手したら私は運命レベルでリナリアのことが好きだったのかも。


なら、益々リナリアを愛でる必要があるな。


決して、これだけでは全然足りないから、大義名分を立てて愛でようとしている訳でないと言っておく。


……ホントだよ?


不思議と頬に降り立つ雪が心地よい。


先程は軽く流せてはいたけど、やはり好きな人から綺麗と言われれば、私にも照れるという気持ちがああったのだろう。


リナリアが自分の照れでこちらを見れてないのが幸いだったかな。


少し熱くなっていた頬を冷ましながら、私はリナリアと雪を眺める。


来年も、その先もこうしてリナリアの側に居たいものだ……いや、必ず居よう。


綺麗な雪を眺めながらそんな決心をする私は……リナリアの事で頭がいっぱいだったのであった。


まあ、仕方ないよね。


リナリアさん可愛すぎ!















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