第3話 カトレアさん最強説

「お嬢様、こちらを」

「ええ、ありがとうジャスティス」


お父様とお母様がお互いの想いを告げてから一週間ほど。


私はジャスティスに頼んでいた資料を受け取ると軽く目を通す。


文字は前世と違うのに、カトレアさんのスペックの高さか、既にほとんど読み書きをマスターしているので、有難い。


「そういえば、本日はお早くお帰りになるので、皆で食事をと、旦那様から言伝を預かっております」

「分かったわ。それにしても、お父様無茶してないかしら?」


これまでの忙しさを緩和するためか、色々と手を回している様子のお父様とお母様。


お母様の場合は、お父様の名代や公爵夫人として頑張りすぎた結果なので緩める余地もあるというものだが、お父様の場合は名門公爵家の当主ということで仕事も多いのだろう。


そんな中でも、お父様はこれまでの事を省みて、お母様と私との時間を作るために張り切っている様子。


食事を一緒に……なんて、これまでには無かった変化には嬉しくもなるけど、お父様のことだから無茶をしてないか不安にもなる。


「大丈夫だと思いますよ。奥様が上手くコントロールしているご様子ですし、私も微力ながら旦那様の仕事を減らせるよう手を回しておりますので」

「お母様とジャスティスが付いてるなら安心ね」


この紳士な執事さんは、実に優秀だし、お母様が上手くお父様の手網を握るというなら問題はないだろう。


「これなら、私以外に弟か妹が出来て、アンスリウム公爵家も安泰かもしれないわね」

「やはり、お嬢様がそちらの資料を欲したのはもしもの時の為でしたか」


お父様とお母様の関係が安泰となった今となっては杞憂かもしれないけど、私以外にアンスリウム公爵家を告げそうな人を探すために、アンスリウム公爵家系列の血筋の人達のリスト作って貰ったのだ。


分家やその他にも少しでも養子として迎えて、本家を継ぐのに問題の無さそう人たちを探して貰ったのだけど……うん、本当に杞憂だったとホッとする。


今のところ、私が公爵家を継ぐのなら婿を取るしかないけど、私としてはそのような重責を担う覚悟はあまりないし、それに私は悪役令嬢カトレアである。


悪役令嬢カトレアは、ゲームではメインの王子の婚約者になっていたので、もしもお父様とお母様の関係がダメだった場合に、なるべく早く養子に来そうな義弟を探しておきたかったのだが、今の様子だとそのうち本物の弟か妹が出来そうだし余計な心配だったかもしれない。


「ふふ」

「ご機嫌ですね」

「ええ、お父様とお母様がイチャイチャしてくれるなら、私の役目も減りそうだしね」


不器用なお父様のことだから、お母様との関係のクッションになろうかとも考えていたのだけど、仲睦まじい2人の様子を見れば邪魔しないのが何よりの親孝行になりそうに思えた。


夜はきっと、お母様が激しいんだろうなぁ……でも、お父様もスイッチ入ると情熱的だから、お母様を赤面させてたりするのかも。


ふふふ、私はオールジャンルウェルカ〜ムな存在なのだよ。


NL(ナチュラルラブ)もGL(ガールズラブ)もBL(ボーイズラブ)も食べれる雑食性。


中でも、美少女が好きなのでGLやNLに傾倒する傾向も無くはないが、美味しいものは何でも美味しい。


前世よりも二次元の美しさに近い人が多い今世は、カップリングするだけで楽しいので幸せの楽園とさえ言えた。


ヒロインちゃんと会うのが物凄く楽しみなのだよ。





ーーー




「カトレア、最近勉学の進みが良いと聞きましたよ。頑張っているのですね」


夕食時、家族三人揃って和やかな雰囲気の中、お母様が嬉しそうにそう褒めてくれる。


カトレアさんは元々天才なのだが、精神年齢が高い私と混じったことでその速度が増してしまったのだ。


この世界は面白いし知りたいことも多いので、自然と学びたくなってしまったのだが……まあ、そんな事は言うはずもなく、私は素直に喜んでおく。


「ありがとうございます、お母様」

「これなら、あの話も受けても良さそうですね、旦那様」

「あの話?」

「……お前の話を国王陛下にしたのだ」


あれま、それって……


「そうしたら、年頃も近いしお前を第一王子のレオン様の婚約者にしてはどうかと言われてな」


予想通りの展開に思わず顔に出そうになるけど、大丈夫。


私のポーカーフェイスは上手すぎると、前世の親友である瑞穂からはお墨付きを頂いてる。


そう、私は顔に出さないのが得意なのだよ!


「光栄なお話ですが、私に務まるでしょうか……?」

「……私もまだ早いとは思う。お前はまだ五つだしな」


おっと、お父様意外と過保護?


消極的なのがその様子から窺えるけど……これは、私をまだ手離したくない親心か、それとも私のようなポンコツを渡すのを危惧しているのかどっちだろう?


「もう、旦那様。この子なら大丈夫ですよ」

「しかしだな……」


お母様に強く出ることは出来ないし、したくないが、即座に頷くのは迷ってしまうというような感じかな?


あ、これは多分娘を手離したくないパターンだね。


表面上は可愛い娘として甘えてるし、お父様は意外と家族によわよわなので、愛娘を嫁に出すということに複雑な気持ちなのだろう。


逆にお母様は、こんな光栄なお話を貰えて嬉しいし、私なら問題なく王妃にすらなれると少し親バカも働いてるご様子。


愛されてるっていいね。


「相性というものもある……」

「政略結婚でも、私は幸せですし問題ないと思います」

「……」

「あ……」


そんなお母様の言葉にお父様は視線を逸らして照れる。


お母様も自分の言葉に照れたように可愛らしく頬を赤く染める。


……この甘い空間に娘が居るのだけど、きっと今は2人の意識に私は居ないだろう。


ここは静かに空気に徹して撤退するのが最良だろうと私は気配を消すように静かに食べ終わると2人の空間を邪魔しないように部屋に戻る。


それにしても、お母様ったら可愛いなぁ……母親じゃなかったら、食べちゃいたいくらいには可愛い。


とても子持ちの人妻には見えないけど、その若さは私も引き継げるのだろうか?


努力してみよう。




ーーー





「では、始めましょうか」

「よろしくお願い致します」


屋敷の一室、私はこの日のために王宮から来て貰った魔法師団の方と一緒にいた。


理由は素敵なことに、魔法検査のため。


そう、魔法があるのだ。


ファンタジーには欠かせない、素敵な力だが、本日は私の魔法適正と魔力量を計ることになっていた。


本来は、貴族でも中流クラスだと王城に出向いて調べる必要があるのだが、流石は名門公爵家。


わざわざ向こうから人員を派遣してくれるので、私は屋敷で手軽に魔法検査を受けられるのだ。


「まずは、魔法適正を見ましょうか」


ボン、キュッ、ボンのナイスバディーのお姉さんはなんと魔法師団の部隊長クラスの人らしい。


多忙なはずだが、時間を割いてきてるのは名門公爵家である事と、お父様の日頃の行いによるものだろうなぁと、少し誇らしくなる。


「こちらの水晶に触れてみてください」


自然と目がいく、大きな母性の塊が何ともけしからんけど、私はそちらと同じくらい、ファンタジーらしい魔法適正の測り方に実に興奮していた。


「触れるだけでよろしいのですか?」

「はい。しばらくすると適正のある魔法の属性が色となって出てきます。火属性なら赤くなり、水属性は青く……と、属性事に別れておりますが、混じったような色が出た場合はその混じった複数の色の属性が使えることになります」


実に丁寧な説明だけど、触りたい好奇心を抑えるのは中々に大変だ。


ゲームでは、カトレアさんの魔法属性とかは出てこなかったし、凄く興味がある。


それに、魔法が使えるかもなんて、前世では妄想でしかなかったのが、叶うかもという希望の光は、実に夢があって凄くいい。


その辺、気持ちが軽く伝わったのか、昔自分にも似たようなことがあったと思い出したようにくすりと微笑みながら、「では、触れてみてください」と許可を貰う。


さてさて、何が出るかなぁー。


五歳児の私には大きすぎる水晶に触れると、しばらくは水晶は透き通ったままの色をしていた。


数秒と時間が経過してもあまり変化はない。


もしかして……私、才能ない?


そんな事を思っていると、魔法師団のお姉さんもおかしいと思ったのか、表情を曇らせるが、数瞬後にそれは驚愕へと変化した。


「なっ……!に、虹色!?」


色鮮やかなそれは、お姉さんの言葉通りの色になっていた。


えっと、色が出たから才能が無いわけではないのかな?


「あの、これは私には何の属性があるのですか?」


そう尋ねるけど、驚愕しているお姉さんは脳の処理に時間がかかっているのか、答える気配はない。


何だろう……面倒な展開が脳裏を過ぎるけど、まさか全属性とかそんなチートはないよね?


「あの……」

「あ……し、失礼致しました。初めてみたもので動揺してしまいまして……」

「動揺ですか?」

「ええ、全ての属性を宿した虹の煌めき……過去の英雄にしか居ないおとぎ話レベルの話ですが、全属性を操れる人が居たとか。水晶の結果、カトレア様は恐らく全属性を扱えるのだと思われます」


この世界の魔法は七つの属性に別れているらしい。


火属性、水属性、土属性、風属性、光属性、闇属性、そして無属性の計七つ。


水晶の結果、私は実に稀なことに全属性魔法の適正があるらしい。


わーい、チートやチーターや。


その後、どこか興奮気味のお姉さんと魔力量の測定もやったけど、そちらもおかしな結果が出てしまう。


「そ、測定器が!?」


魔力量を計るための測定器に触れてみると、数字がカンストしたと思ったら途端に測定器が壊れてしまう。


分かったのは、測定器の許容量を超える魔力量を私は秘めているかもということだけ。


「カトレア様!是非魔法師団に入ってください!」


魔法師団のお姉さん……マーリンと名乗るボンキュッボンの美人さんは熱い視線で私を勧誘してくる。


そう、そこに感じるのは私という存在への圧倒的な興味。


魔法使いとしてのものと……それとは別のゾクリとするような気持ちも籠ってそうなそれは、そのうち私がこの人を「お姉様」と呼ぶ未来まで幻視させた。


悪くない未来だけど……ヒロインちゃんと会う前に堕とされる訳にもいかないので、「考えておきます」と大人の対応でとりあえず本日は誤魔化した。


いやー、しかし私もついに異世界チート無双をする準備が出来てしまったのかぁー、まあ、悪役令嬢カトレアさんの役目をしてからでも遅くはないかもだけど、ヒロインちゃんに会わないことにはその決心もつかない。


何とかしないと。





ーーー




あれから、結構な騒ぎになりそうになったが、私のことは一先ずこの国の上層部のみの極秘となっていた。


魔法使いは貴重な上に、私はほとんど前例のない全属性持ちの魔力量カンストという測定結果。


当然、魔法師団は私を迎え入れたいと前のめりらしい。


そして、この件で私は攻略対象の第一王子のレオンとも婚約者になってしまった。


私という存在は実に良い母体だと国王陛下は思ったのだろう、王太子の婚約者に問答無用で決まってしまう。


うぅ……何故にこんな事に……


「お嬢様、大丈夫ですか?」


私付きのメイドさんの中で、最も仲良しなメイドさん(私が転んだ時に積極的にお世話してくれたり、私の回復に1番喜んでくれた人)のミーナが心配そうに私に声をかけてくる。


その優しさが温かい。


「大丈夫よ。ありがとうミーナ」

「いえ、でも大変ですね。毎日の勉強に王妃教育と魔法の稽古も増えましたし」


もう少し五歳児を労わってもバチは当たらないと思うのだけど、私は早熟だと思われているからか、日々の学びが増えてしまった。


まあ、少し堅苦しいけど王妃教育も面白くはあるし、魔法も使えれば楽しいのでその辺の苦労はないけど、私の事を知った貴族からのちょっとしたアプローチや魔法を教えてくれている魔法師団からのアプローチが凄い。


あの日、私に熱い視線をくれたマリーンが私の師匠になったのだけど、既に少しづつ私を『妹』にするための前準備まで初めてそうで少し恐ろしい。


マーリンさんとそういう関係も悪くはないけど、私はまだ五歳だし恋愛は早いと思う。


今は妹分で何とか耐えておくけど……成人後はどうなるのやら。


てか、成人後は成人後で私は王妃にさせられるかもしれないしそこも悩み所……ヒロインちゃんの踏み台としての悪役令嬢カトレアさんになるつもりが、知らず知らずにその価値を高めてしまった。


これは、もしヒロインちゃんに協力するとなったらとんでもない悪いことをしないと婚約破棄は難しそうだが……根が小物の私には辛すぎる。


「でも……頑張らないとね」

「はい!頑張ってくださいお嬢様!」


思わず口に出た言葉に嬉しそうにグッと応援してくれるミーナ。


この子も癒し系で可愛いよねぇ……あ、でも確かこの子執事長のジャスティスの孫と付き合ってるって聞いたから寝取りはダメだね。


というか、ジャスティスがお爺ちゃん……なんか和むな。


あんな紳士でカッコイイお爺ちゃん居たら自慢の種だよね。


まあ、私としてはお父様もカッコイイと思うけど……やっぱりお母様の可愛らしさが一番自慢の種かもしれない。


……と、そんな事より。


「ミーナ、ジャスティスに会いに行くわ」

「分かりました」


多忙すぎるが、予想以上に事態の推移が激しい。


これは、早めにヒロインちゃんに会うのを本格的に推奨すべきだろう。


私は、万能執事のジャスティスにスケジュール調整して貰って、ヒロインちゃんに会いに行く時間を作ってみることにした。


私のお出掛けにお父様が物凄く心配そうにしていたが、私のおねだりには勝てなかったのか、ジャスティスのお孫さんとミーナ連れて行くことを条件に受け入れて貰った。


それにしても、ジャスティス一族は信頼厚いね。


まあ、私もジャスティスの親類というだけで信じられてしまうのだけど……ジャスティスさん、パネェっす。


























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