第十章 お人好し
「まったく、世話かけやがって・・・」
苦笑いしながら、プラットホームの端から振られた女と親友を橋本は眺めていた。
手にした携帯電話の履歴には「里美」と表示されていた。
中々、姿をあらわさない里美が心配で電話をかけたのだ。
案の定、おバカな山下は号車を一桁間違えてメールしていたらしい。
新幹線のプラットホームはくそ長い。
5号車と15号車では何百メートルも離れているのだ。
だから、20分前になっても現れない里美がもしかして、と思ったのだ。
何とか合流した二人は人目もはばからず抱き合っている。
何だかなぁ、と思いながら肩をすくめていたら。
「よおっ・・・・」
遠藤が肩を叩いた。
「遠藤さん・・・?」
驚きの表情に、遠藤はくすぐったそうに笑った。
「お前も・・・損な性格だなぁ・・・」
普段、クールで生意気な後輩が可愛く思えてしまう。
「な、何で、ここに・・・?」
「お前たちの話が聞こえたのさ・・・山下の隣りは俺のブースだから・・・」
ズボンのポケットに両手を突っ込んで、眩しそうに里美達を眺めている。
「里美ちゃんが中々こないから・・・山下のことだから、もしかしたら号車を間違えて伝えたんじゃないかと、念のため5号車の方までいったんだ・・・」
橋本は何も言わず、ジッと耳を傾けている。
「案の定、5号車のところで里美ちゃんが立っていて、声をかけようと思ったら携帯電話に耳をあてていて・・・あれ・・・お前だろ?」
橋本は無言でうなずいた。
「その後、彼女がダッシュしたから俺も追いかけたけど、何だかなあ・・・だよな?」
「フフ・・・・」
遠藤の口調に橋本の顔がほころんだ。
その表情が妙に可愛く思った遠藤は感慨深く言った。
「お前も案外、お人好しだよなぁ・・・」
チラリと山下達の方向を見た。
「お前が電話しなきゃあ、二人はどうなっていたか・・・」
「いずれにせよ、くっついてましたよ・・・」
間髪入れずに帰した言葉に、遠藤は満足そうに言った。
「よし、今から飲みに行くかっ・・・?」
「まあ・・・遠藤さんのおごりなら・・・」
二人は笑みを交わしながらホームの階段を下りていった。
15号車の山下のスーツケースは白線にそって並んだままだった。
山下と里美は11号車の白線で、まだ抱き合っていた。
3月中旬の春らしい土曜日の昼下がり。
咲いたばかりの花が、しあわせそうに息づいていた。
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