第六章 転勤

【ええっ・・・?】

遠藤の言葉に里美と恵理子は同時に声を出した。


山下の名古屋の転勤が決まったのである。

四月の新年度での移動であった。


遠藤にしても優秀な部下と、建築への熱い情熱を持つ可愛い後輩を手放すのは断腸の想いだったが、山下のこれからの活躍の場が増えることは喜ばしいことだった。

もう、一人でも十分やっていける実力はついていたのだから。


だが、肩を落とし寂しそうな表情を作る里美を見ると手放しでは喜べないのだった。

最近、CAD設計の専門学校に通い、メキメキと技術を習得した里美は山下の良いパートナーとして楽しく図面作成をしていたのだから。


恵理子も妹のような可愛い里美を見つめながらタメ息をついた。

あと一年、いや、半年もあれば二人の恋は実る筈なのに。


山下の転勤まで、あと二週間も無い。

色々、準備もあるから10日後には名古屋に旅立っていくのだ。


遠く離れてしまえば、気持ちを確かめることもできない。

もどかしいことだが、自分には手助けできることは殆どないのだ。


これは、当人同士の問題なのだから。


だけど、里美が山下を好きなのは明白だった。

時折、彼を見る眼差しが橋本とはまるで違い、熱さを感じていたのだから。


からかう様に問い詰める間いにも、里美の心が一人の男の向かっていくのを感じていた。

だからこそ、儚い恋心を花開かせたくて切なく見つめるのだった。


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