第8話 強制契約させられちゃった

 自称「神さま」の愚痴っぽい雄叫びは置いといて。


「ねえ、スキ……あ、大丈夫ですわ。ちょっと寝ぼけていただけよ。疲れたみたい。あなたたちも疲れたでしょう? もう、慌てても仕方ないから、今日はここで野営にしてはどうかしら?」


 思わず『神さま』に話しかけようとして、怪訝な従者の視線に気付いた私は、慌てて言い繕い、ついでに休憩を提案した。


 従者は「いや、そのような」とか「どうか我々のことなど構わず」とか言いつつ、ちょっとホッとした顔をしていた。

「私も疲れたの」と言うと、「それでは……」とすんなり引き下がったので、実際疲労がたまっていたんだと思う。


 そりゃまあ、いつ到着するかも分からない未知の土地への旅路、身体的にも精神的にも疲れはててるよね。



「で、スキルって、どう使うの?」

 従者が下がったあと、私は小声で神さまに声をかけた。まあ、頭に浮かべれば伝わるって分かっているけど、やっぱり覗かれているような気がして、イヤだし。


『え? さっきやったじゃん?』


「は?」


『思い浮かべて、声に出して、はい完了』


「いやいや、そんな簡単に? だって今まではそんなこと起きなかったわよ? それに、声に出したって言っても、木の種類が変わる、とかくらいで」


『うーん、念じる強さとか、イメージとか、かな? 声は、まあ、合図っていうか、意志が込もっていれば何でもいいんじゃない? ほら、訳の分からない呪文でも、口にすれば効果あるじゃない?』


「へ?」


『まあ、ファンタジーの世界観とか、魔法の設定は作品によって違うけど、完全に言葉の意味を分かって呪文を詠唱しないと発動しないタイプもあれば、キーワードとして唱えれば意味は知らなくても発動するとか、色んなパターンがあるし。究極的には、無詠唱なんてものもあるわけで』


「はあ……」


 何というか、やっぱりこの人、一応はプロのクリエイターなんだな。


 思い付きのような設定だけど、ちゃんとそういう知識とかあるんだ。


『へへっ。まあ、仮にも創造主だし』


 うっかり感心したら、しっかり読み取られた。

 ドヤッとした顔が見えて、ちょっとイラつく。


『まあまあ。で、このゲームの世界ってそこまで魔法が絶対じゃないっていうか、一般人にはそこまでの魔力はないっていうか……まあ、めんどくさかったから、あんまり設定してなかったんだけど。だから、ルクレつい……ああっ! 言いにくい! いいや、ルーちゃんで』


 って、勝手に略すな!


『いいじゃん。ルーちゃんも、勝手にこのゲーム「青バラ」とか略していたんでしょ? で、ルーちゃんが【強くイメージする】【その思いを声に出す】っていう方法でスキル発動しちゃったから……それがデフォになっちゃったかな、って感じ』


「え? 私がやった、から?」


『うん。ルーちゃんのスキルって、ハッキリ言って、神レベルなんだよね。オリジナルを作れるっていうか、ルーちゃんが【そういうものだ】って強くイメージすれば、物質であれ現象であれ、存在してしまうっていう…………口にしたら、めっちゃ恐ろしいな』


 恐ろしいなんてもんじゃない! それって、万が一私が『この世界を滅ぼす何か』とかイメージて叫んだら、ホントに魔王とか現れちゃうってことじゃないの?!


『うん。たぶん。だから、一応神として、制限はつけようと思って』


「制限?」


『そう。えっと【世界の命運に関わる直接的な存在設定に関わる命名は出来ない】という感じかな。あと、それに、関わるような【きっかけ】を生み出した場合は、ちゃんと【責任】取るって【契約】。オッケー?』


「そりゃ、まあ、そんなことになると、わたしだって困るし……でも、【責任】とか【契約】とか、それは……」


『うん。それだけのスキルを賜ってしまった以上、仕方ないよね。じゃ、がんばって!』


 って言い捨てて、神、もといゲーム制作者、気配を消してしまった、……え?


 なに? 今の、はなし? え?


 消えると同時に、どこか遠くで『ガチャン』と鍵の締まった音がした。


 それが、【契約】が締結された証だと、何故か分かった。


 逃れられない鎖に縛りつけられた、拘束の証の鍵音。


 いやまて!

 

 こんな一方的な契約ってあり?


 クーリングオフとは言わないが、考える時間くらいよこせよぉ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る