第7話 スキルに目覚めちゃった

 突然、世界が変わった。


 ううん、それはちょっと大げさ。


 変わったのは、木々の風合い。

 緑とは言っても、どこか淡い広葉樹の葉っぱ。


 冬なのに、常春のこの国の木々の葉っぱは散らないし、枯れない。

 種類によって紅葉するものもある。科学的には少しおかしいけど、そういう品種だっていわれたら、まあいい。


 それが。


 濃い緑色をおびた葉の、針葉樹に変わった。

 幹もごつごつした太い形から、まっすぐ伸びたほっそりしたシルエットに変わった。


 さっき、北海道みたい、って言ったけど、木々に関してはこちらの針葉樹林の方がイメージに近い。


「……なんで?」


『ああ、とうとう目覚めたか……。名づけの聖女、ルクレイツァよ』


 どこからか、声が聞こえてきた。


 重々しいセリフのわりに……何となく子供っぽい声。幼い、というか、いい年した大人の女性が、わざと少年っぽくしゃべっているような、作った感じの声。


 っていうか、今なんて言った?

 名付けの聖女?


『そなたの特殊能力スキルは、【命名権ネーミングライツ】。この世界のありとあらゆるものに名付けをする力だ』


「ね……ネーミングライツ?」


『知らぬのも仕方ない。これは、非常にたぐいまれな能力だ』


 いや、知ってるよ? 

 命名権。ネーミングライツ。


 企業とかがお金払って、公的施設とかに好きな名前つける権利でしょ?


 それがスキルって……うん、それが分からん。


 それに、名付けの……って、いったい……?

 あと聖女って……?


 悪役令嬢の次は聖女? うわ、設定盛ってこられたよ。

 というか、十中八九、この声って……。


「ゲーム制作者かなんか?」


『我はこの世界の神……って先に言うなぁ! ってか、制作者じゃなく、か・み! 神さま! 創造主!』


 もはや取り繕った威厳もかしこもない、まあまあ若い女性の声が被さる。


「はいはい。それで、その神さまで創造主のゲーム制作者さまが、いまさら何? っていうか、私を転生させたのも、アンタ?」


『それは知らないよ! あ、キミ、ゲームの悪口言ったんじゃないの? 運営の苦労も知らずに低評価つけるユーザーに思い知らせてやるっ! て祈っていたからさ』


 いや、それは祈って、じゃなく、呪って、じゃない?


 それに私、低評価なんてつけてないし! そもそも評価入れてない!


『それは知らない。もう、めっちゃダウナーで、正直何考えていたか分かんないし。気が付いたら、こっちに飛ばされてて。なんかふわふわしてたら、キミの声が聞こえてさ』


「だったら、『名付けの聖女』って……」


『あ、それは適当。スキルが【ネーミングライツ】だったから、っぽいかな、って』


 適当かよ! ホントにただ設定盛っただけだな!


 でも。


 さっきの、何? 私、名付け、なんてしてないよね?


『あ、なんかね、名付けるっていうか、存在そのものの定義を変えちゃう力みたい。あと、何もない状態なら存在させることもできるし。ほら、名前って、実はものすごい強制力持ってるじゃない? ファンタジーとかだと。だから命名権、ネーミングライツ。かっこっよくない?』


 かっこよくない、じゃない!! というか、この自称『神』、さらっと人の頭の中、読んでるよね?


『ま、それは特権だし? この世界の創造主たるもの、登場人物の考えていることを読むなんて、容易い、容易い』


 なんか、ムカつく話し方。

 見えないのに、ドヤ顔が脳裏に浮かぶ。


 それより、創造主だって言うんなら、ルクレイツァの扱い、何とかしてよ!


 こんな訳のわかんない、設定もあやふやな場所に行かせてんじゃないわよ!


『あ、それは無理。シナリオ、別の人だもん。設定だけで、下請けに回しちゃったから、権利はあっちにあるし』


 何だって?!


『この業界、分業当たり前じゃん? 基本コンセプトだけ立てて、共有して、それぞれの担当部署で割り振って』


 そんな業界の事情は知らん!


『なのに、さ。私のアイディアだよ? 私が主のコンセプトだよ? なのに、シナリオとイラストばっかり評価されちゃってさ!! 「設定が浅いのが難である」とか「テンプレの域を出ない」とか!!』


 ……ああ、それは私も思った。


『ああ! また! なんでそうやって! こんな壮大な世界観に多種多様な攻略対象! いちいちそんなに細かいところまで設定できるか!』


 ……あーあ、本音ダダ漏れですがな。



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