第6話 堂々巡りになっちゃった

 王都を旅立って。


 まあ、そこは公爵家ですから、とぼとぼ歩いて移動なんてわけはなく。


 それなりの品質の、でも一応目立たないように装飾控えめの馬車で移動したりするわけですよ。


 でも、……きついわ、これ。

 いくら高品質の座席でも、何時間も、十何時間も乗りっぱなしは疲れる!!


 もちろん、休憩は取ってるし、夜は宿に泊ま……っていた、わよ、最初は。


 街道沿い、王都の周辺にもそこそこ栄えた町は点在していたし、大きな農村部にもそれなりの、つまり貴族階級が宿泊するに問題ない宿屋はあった。


 けれど、まあ、当然と言えば当然、辺境に近づくほど、寂れてくるのは仕方ないのだけど。


 これは、ちょっと……そういうレベルじゃない!  そもそも、街道沿い、何にもない!


 ひらすら草原、遠くに森、はるか遠くに山!

 景色、全然変わらない!


 雄大だな、テレビで観た北海道の大地みたい……なんて感心していたのは最初の2、3日。


 天幕張って野営するのも、最初は面白かったけど。  ……いつまで続くの、これ?


「何と言っても辺境ですから……何日もかかるとしか……我々も初めてで……」


 従者の言葉も頼りない。


 というか、初めてって、どういうこと?


 普通、こういう時ってそこそこ詳しい案内人とか雇うんじゃないの、ファンタジーって?

 いや、現実世界だって、添乗員やバスガイド雇えるよ?


「王都には詳しい人材がおりませんで……現地で雇用するよう、申し付かってはおりますが……なかなか見つからず」


 ちょっと! どうなっているのよ! 仮にも公爵領でしょ?!  

 自分ちの領地行くのに、そもそも詳しい人間がいないってどういうこと?!


「あまりにも遠いものですから、現地の住民を雇用して管理は代行させておるのです。やり取りはすべて文書で……なので公爵家の家人も、直接赴くのは、実は初めてで」


 何ですって?!


 いや、現地で人を雇うのは、まあいいのよ。アウトソーシング、外注はあり。


 都市部の人間に辺境で長期の仕事しろって、難しいかもしれないし。


 でもさ、丸投げってどうよ?


 せめて年1回、いや数年に1回でも、視察くらいすべきじゃないの?

 慌てて旅立ったとはいえ、リサーチ怠ったのは、やっぱりまずかったわ。


 そんな半ば放置したような土地で、心の傷癒せとか、将来分譲するとか、何考えてんだ、あの父親!

 そう毒づいてみても、景色は変わらない。永遠と続くような、草原……って、あれ?



 この景色、いくらなんでも変わらなすぎ。

 腰もお尻も背中も痛いのガマンしながら何日も馬車に揺られてきたのよ?


 いくらなんでも、こんなに変化がないの、おかしくない?

 

 ……辺境への旅路12日目、草原地帯に入って8日目にして、私はようやくおぼろげだった違和感を確信した。



 設定、されていなんじゃない?

 もしかして……。

 だって、元々『北の辺境に追放された』の一文で済まされていたんだもの。


 それ以後、ヒロインと王子のハッピーラッピーなイチャイチャラブラブエピソードが満載で、ルクレイツァのルの字も出てこないし。


 ヒロインと攻略対象のハネムーンとかイチャラブイベントで小旅行、なんてエピソードはあったから、王都周辺の設定はされていたのかもしれない。


 でも、追放先周辺の細かい設定なんて、本編には関係な、い、もの、確かに……って、ふざけんな!


 もしかして、延々とこのまま旅させられるんじゃないでしょうね?!


 だって、こんなんじゃ、辺境そのものだって、設定されていない可能性大!


 存在しない場所に、どうやって行けっていうのよ!!


 この変わらない風景の中を堂々巡りしてろって言うの?!



「人を転生させておいて、設定なしとかふざけんな! せめて『北に向かって木の種類が変わる』くらい設定しろぉ!!」



 お嬢様のルクレイツァとは思えない怒号が、口からほとばしる。


 怒りのあまり、ルクレイツァの自制心もセーブできなかったんだろう。



 突然の悪口雑言に、従者が目を白黒させ……同時に、世界が、変わった。



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