第4話 追放されちゃった

「いいわけは聴かぬ! そなたは追放だ! 辺境の領地で反省するがよい!」


 釈明も受け付けられず、唐突に(この単語、何度使った?)第一王子から出た言葉。


 は? 何で?


 いや、そういうシナリオなのは、知っている。


 ルクレツィアは、第一王子だけでなく、他の王子攻略ルート、若き騎士団長やエリート秘書官などの臣下の貴公子ルート、あと留学してきていた他国の王子ルートにも【何故か】婚約者だったり恋敵だったりの設定をされていて、よくて社交界締め出し、最悪パターンで公爵家勘当、王位継承権剥奪の上国外追放や投獄だったりする。


 辺境とはいえ領地に謹慎だったら、まだ最悪の結末、というわけではない、けど。


 いや、おかしくない? そこまで罰のバラエティー設定するくらいなら、むしろ他の悪役増やそうよ?


 何全てルクレツィアに負わせてんのよ?


 いやいやいやいや、そうじゃない!


 そもそも、何で追放?


 今までの流れで、婚約破棄だけでも貴族の令嬢にとったら大ダメージだよ?


 こんな騒ぎになって、まず今まで通り社交界に出ることは、できない。

 禁止されるわけじゃないけど、体面を考えたらしばらくは色々理由をつけて社交は控えざるを得ないだろう。


 貴族令嬢にとって社交界に出られないということは、将来にとって大きな瑕疵きずになる。


 当然まともな縁談だって来なくなるだろう。

 ルクレツィアには男兄弟がいるから、爵位を引き継ぐ可能性は低いし、爵位も嫁ぎ先もない貴族令嬢の未来は、この世界観では暗黒だ。


「承知いたしました。娘は北の辺境に赴かせます。婚約破棄も承りました」


 って、いきなり話に入ってこないでよ、お父様!


 この国の宰相ともいうお方が、唯々諾々と承知しないでよ!


 どう考えても、(ほぼ冤罪とはいえ)『嘲笑った』『冷たい目で見た』なんて理由で追放って、おかしいでしょ?!


 ……と叫びたいのを我慢して。


 王族が命じ、家長が許諾し決定したものを、公衆の面前で覆すことなど、徹底した令嬢教育を受けてきたルクレツィアには出来るはずもなく。というか、【私】の反論ごと、自制心で押し込められた。


 うん、この子、わりとすごいわ。


 こんな風に自分を律することが出来る子が、たとえ不快には思っていても、嫌がらせなんて手段取るとは思えない。

 

 たぶん、ヒロインに呆れて、冷淡な目で見たりため息ついてしまうことは、あったかも知れないけど。


 困っていても、直接手助けはしなかったかもしれないけど。


 実際、それ以上のことはしてないから、第一王子も『品性下劣』という言葉ですべてを納めようとしているんだろう。


 いや、設定無理すぎ!


 ヒロインが死にそうな目にあっているのを助けも呼ばす傍観していた、とかならまだ良心の呵責もあるだろうけど。


 いや、公爵令嬢なんだからクラスメートが困っていたら慈愛の手を差し伸べろ、それが義務だ、役割だ、って言われたら、それまでだけど。


 指導する立場として、自分で乗り越えなければいけないにしても、アドバイスくらいしろって言われたら、無責任の謗りは甘んじて受けるけど、さ。


 そこまで課されてないから! 親愛の情もない相手にそこまでするなんて、どんな聖女サマだよ?!


 ……なんて悪口雑言を胸の内に秘め、結局ルクレツィアは黙して語らず。


 泣く泣く北の『辺境』への追放が決まってしまった。



 ところで、『辺境』って、どこ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る