第9話 ヴァンパイアだ

 ある夜の事である。黒猫のアリシアはベッドの隅で寝ている。今日は眠れないなと携帯と時計を見ている。


 ふと、窓の外を見るとコウモリが飛んでいる。


「ヴァンパイアだ!」


 アリシアが起きてきて一緒に外を見る。


「血族がこの世界にも居るのか?」


 血族か……わたしは昔話を思い出す。血によって縛られた吸血姫の物語である。


「あーシリアスモード禁止」


 わたしが注意すると。アリシアは渋々、前足を口元に持っていき、『ふ~』っと息を放つ。音も無くコウモリは消えてしまった。


「吸血姫など関わっていいことは無い」


 このアリシアは異世界の令嬢である。毎日を優雅に過ごしている訳ではなさそうである。血族なる人種とも交流があり、自治権などの話し合いをおこなうらしい。

 

 翌日、猫神様の前で缶コーヒーを飲んでいると。


「今日はお招きいただき、ありがとうございます」


 うちの高校の制服を着た少女が声をかけてくる。


 な、なに奴?


「これは挨拶が遅れました。吸血姫の夜葉です」

「にゃんですと!昨日魔物よけの結界を張ったはずだが……」


 アリシアが驚いていると。


「わたし達の言葉で来るなとありまして。今日は挨拶にまいりました」


 つまりはヴァンパイアに通じる言葉の持ち主に会いにきたとのこと。アホだ、アリシアが妙な術を使うから来たらしい。


「この様に貴女の学校の制服も用意しました。友人として仲良くして貰うと嬉しいです」


 相手は吸血姫だ、下手に断ったら廃人にされてしまう。原因のアリシアはヤレヤレと呆れている。この猫にとってわたしの不幸など関係ないらしい。


 てれてっててて♪『夜葉が仲間になった』……。


 わたしの日常が無くなっていく。孤独よりましかと思うのであった。


 その後に学校に行くと再び夜葉が現れ。


 昇降口にいる。そのままわたしのクラスに一緒に入り、夜葉はわたしの隣に座り、微笑んでいる。元居た、冴えない男子は一番後ろに座っていた。


 本物だ、本物のヴァンパイアだ。


 うん?


「ぐおー、ぐおー」


 肝心のアリシアはいびきをあげてスクールバックにつる下がり寝ている。わたしは術式を走らせて生の猫に戻す。


「なんだ?昼飯か?」

「そうだ、夜葉のおやつになるのだ」


 アリシアの血を吸わせて、わたしが生き残ろうと思うのであった。


ふふふ……。


 やはり夜葉はわたしに向けて微笑んでいる。こんな黒猫は餌にはならないのか。


「血族は『特別な美少女』しか興味がないのだ」


 と、言う。きっと『特別な美少女』のわたしが狙いに違いない。そのセリフの後で顔を歪めてこちらを見ている。


「アリシア?どうした?」

「そうですよ、わたしは雑食なので、勘違いかと」


 夜葉も何かを否定してる。


「例えば『特別な美少女』とか?」

「そうだ!」


 夜葉は頷いている。どうやら痛い事を言ったらしい。


「わたしも痛い人は食べたくないです」


 二人でわたしをイジメるのか?この『特別な美少女』なのに。


 しかし、ツッコミ役のわたしがボケては話にならんな。少し考え直そう。


「ふふふ、命拾いしたな、雑食なわたしでも痛い人は論外よ」


 夜葉は前の席の女子の首筋にかぷりと牙を伸ばす。


「下部になるのか?下部になるのか?」

「安心して、致死量まで血を吸わないと下部にはならないわ」


 ハンカチで口元を拭いている夜葉は満足げであった。

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