第2話 現代日本は住みやすい?

 昨夜、親にアリシアを飼っていいか聞いたところ。自分で面倒みるならイイとのこと。放任主義のうちの親らしい返事であった。一夜あけてアリシアの事などすっかり忘れて、わたしが学校に行く準備をしていると。


「わたしも行きたい」


 あ、黒猫が喋った……。


 そうそう、この黒猫は昨日、猫神様の社で拾った令嬢であった。少し訂正、皇太子の婚約者を呪い殺そうとして失敗、結果として異世界転生、この街に来たのだ。そう、それでいて生活が極貧なので極貧悪役令嬢である。これからは極貧悪役令嬢と認識完了。


 さて、どうしたものか?首を傾げて考えてみると……。


「すー、すー」


 朝ご飯も食べてお腹いっぱいなので、寝てしまうところであった。ま、害もなかろう。ここは英断として連れて行く事にした。


「ずっと、スクールバックの中にいるなら連れていくよ」


 そうか!学校に捨てることもできるな。わたしがニタニタしていると。


「ぬいぐるみの姿になるぞな」


 そう言うと、アリシアは術式を走らせて。ボン!と煙が上がり黒猫のぬいぐるみになる。ぬいぐるみ姿では学校に捨てたら、ゴミとして処分されてしまう。やはり、危険を察知したらしい。


 こ奴、できる……。


「どうせ、捨てることでも考えていたのだろう。わたしは便利な存在なので捨てにくいぞ」


 では、何故、人間の姿に戻らぬ……ま、出来ないから戻らぬだろうがな。


 とにかく、学校に行かねば。


 わたしはぬいぐるみになったアリシアをスクールバックにぶら下げて家を出る。猫神様は自転車通学なので学校との途中での休憩の好都合なスポットである。近くの自販機でコーヒーを買いまったりする。


 さて、出発するか。 わたしはコーヒーの空き缶を捨てると自転車に乗る。


 ボン!


 ありゃ、アリシアが元の猫に戻っている。


「言ったはずだ、この世界には術式のエネルギーになるマギが足りないと」


 だから、偉そうに言うな。 仕方ない、アリシアをスクールバッグに詰め込んで出発する。 やはり、猫神様の敷地に捨てたら寝起きが悪い。猫神様もすこぶる迷惑だろうしな。 一度は拾った猫だ、面倒を見よう。 学校に着き教室に入ると心配してたとおり。スクールバッグから抜け出してクラスの皆に注目される。


「ねえ、夏樹、この猫喋るよ」


 マブダチのリサに質問されると。小首を傾げて数分、考えると、これといった解決策もなく。素直に猫神様の神社で拾ったと言うことにした。


「大丈夫、喋るだけで害はないから」


 悲しい事に人間とは飽きる生物である。朝方に『喋る猫だよ、喋る猫だよ』とちやほやされたアリシアであったが昼過ぎには飽きられていた。ま、悪役令嬢なら友達もおるまい。やはり、小一時間、同情するか悩んだ末に放置する事にした。


「人生って虚しいモノね」


 アリシアが窓から空を眺めている。何度も思うが呪いに失敗して猫の姿になったはずだが、異世界をエンジョイしているのは気のせいだろうか?わたしはお弁当に入っているちくわをアリシアに与える。


「美味である」


 確か毎日が麦メシと野菜スープであったな。


 それでいて、メイドが五人とか。そこらへんを問いただすと。


「メイドは昔から五人雇うのがしきたりだが」


 でた、しきたりなる悪鬼である。これがリアルの滅亡する国家の理由なのか。

それは異世界転生で猫の方がいい訳だ。


 しかし、怖いなー。


 この現代日本で異世界転生が支持されるのは滅亡に進んでいるのではないであろうか。


 と、心配する。


「夏樹、こないだ借りた、異世界転生モノの小説返すよ」


 リサがバックから本を取り出す。


 タイトルは『事故で死んで異世界に転生して、入ったパーティーをざまぁ。簡単なチートスキルで魔王が仲間になり、いつの間にかハーレム』である。


 うーん、隣の芝生は青く見えるのかな……?小首を傾げる昼下がりであった。

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