極貧悪役令嬢は黒猫の姿で活躍する?

霜花 桔梗

第1話 異世界から黒猫の姿で転生

 わたしの名前は夏樹、ごく普通の女子高生だ。趣味は呪い、マブダチは北欧のハーフのリサです。あーマンネリな毎日に何か面白い事ないかなと憂鬱な気分であった。


 そんな、冬の午後、わたしは高校からの下校途中で猫神様の小さな社の前で休んでいた。


 この猫神様は恋愛成就が売りであるが本当は呪いの聖地なのです。


 うん?


 雲行きが怪しい。冷たい空気が満ちて黒い雲が空を覆う。あちゃー、これはヤバイ、急いで帰ろう。


 社の隣にある万年杉に落雷が起きる。わたしは人生が終わるかもしれない程の衝撃を受ける。つまりは死にかけたのだ。ふう~危なかった。やや、猫神様の社から少し離れた場所から煙が出ている。煙が風によって流れると黒猫が倒れている。わたしはそっと近づく。むくりと、黒猫が起き上がる。


「にゃんですと!!!」


 あ、喋った。黒猫は前足を眺めながら絶叫している。


「そこの娘!鏡はあるか?」


 どうやら、わたしのことらしい。喋る猫に驚きながら、手鏡を取り出す。この様な事態には素直に従うのがいいと判断した。


 黒猫に鏡を見せると……。


「やはり、猫になっている!」


 想像するに元は人間であったらしい。


「さて、わたしはルド伯爵の一人娘のアリシアである。そこの娘、ここは何処であるか?」


 落ち着いた様子は気品があり上流階級であると主張していた。うむ、どうやら、異世界から来たらしい。


 普通は猫が喋る訳もなく納得する。で……ここは地方の政令指定都市である。田舎と言えば田舎なのだが。アリシアに説明を始めると……。


「ここは異世界なのか!わたしも猫の姿だ、違いない」


 双方一致した意見であった。わたしがその場を去ろうとすると。


「娘!これも何かの縁だ、わたしの面倒をみてくれぬか?」


 うーん、猫一匹なら問題ないのだが、喋る猫か……ペットには可愛くないし。わたしが小首を傾げていると。


「わたしは贅沢のかぎりをしてきた、そのわたしが庶民の家にやっかいになると言うのだ。ありがたく思え」


 仕方がない、このまま見殺しにしても目覚めが悪い。


「わたしは『夏樹』です。『夏樹』と呼んで下さい」


 それから、わたしは黒猫のアリシアを持ち上げるとスクールバックの中に詰め込む。


 以外と軽いな。


「こら、扱いが雑だぞ」

「はい、はい、猫ちゃん、偉そうですね。歳は幾つになります?」

「15……」

「はーわたしより年下ですねー」


 スクールバックから顔を出したアリシアの頭をナデナデする。


「年下扱いするな!わたしは五人のメイドに面倒を見てもらっているのだぞ」


 うん?今はただの猫なのに?わたしは木の棒を拾い。道路に術式を書き始める。わたしの趣味は呪いだ。このアリシアに呪いをかけて白猫にしてしまおう。


「この術式は呪いであるな」


 アリシアは術式が読めるらしい。


「この世界では発動するエネルギーたるマギが足りないはずだ」


 ま、呪いなど効果がないはずであるが、アリシアの世界では普通に発動するらしい。


「呪い殺すほどの強力なモノは失敗すると何が起こるか分からないですよ」

「例えば猫の姿で異世界に転生するとか……」


 ……。


 沈黙するアリシアは心あたりがあるらしい。


「ふ、貧民の分際で皇太子の婚約者になるからだ」


 あ、認めた。女の嫉妬は怖いですねー。うんうんと納得しながら帰宅するのであった。自宅に着くとアリシアは落ち着かない様子であった。心配するか迷ったが。単にお腹が空いたらしい。キャットフードは無いのでご飯にかつお節をかけた物を与える。


「これは美味と言えるな」


 確か贅のかぎりをしていたとか。


「アリシアは普段どの様な物を食べていたのだ?」

「麦メシと野菜スープだぞ」

「毎日か?」

「そうだが問題あるか」


 詳しく話を聞くと王族とのパーティーの為に着る衣装に多額の費用がかかるらしい。また、収入である大地主としての財は固定資産税でほぼすべて持っていかれるとか。それでいて、伯爵の家柄なので副業が禁止されているらしい。それでは皇太子にでも嫁入りしなければ、やっていられないな。


 うむ、それで危ない呪いを実行したのか。かなり、同情するが。今は黒猫だ、扱いも簡単そうだし、試しに……。


「味噌汁も飲むか?」


 インスタントの味噌汁を作ってあげると。


「じつに、美味であるぞ」


 わたしはご飯を食べなかったら、燃えるゴミの日に捨ててしまおうかと悩んでいたが、可愛そうなので親に飼っていいか頼むことにした。

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