第22話 青天の霹靂
うっぷんを
だからここにきたんだ。
前回のループで
えらんだ
そして、
「やった!」
何球目かのあとで、ようやくボールが前に飛んだ。あの日、あざやかに打った彼女のフォームをおぼえていたからかもしれない。
こうなると、コツをつかめたも
しだいにゴロじゃなく、フライも打てるようになって、
「…………まじか」
おっめでとうございまぁ~す! とまわりのみんなにきこえるようにハデな場内アナウンスが入る。
ホームラン。
なんか、急にハズかしくなってきた。
バットを置いて、逃げるようにバッターボックスから出た。
おれの目の前には――ぱちぱちぱち――と小さな拍手でむかえてくれる、
「やるじゃん、
現実は、おれとソエンな、たんなるクラスメイトにすぎないのに。
どうして、あの子を思い出すような場所に来てしまったんだろう。
(でもスカッとしたな)
そのあと、映画館にいく。
なんとなく気になったヤツをえらんで、座席にすわった。
「上映前の、このワクワクする感じが大好きなの」
いつか
あの子のウィンクは今でも目に焼きついている。かわいかったから。
館内が暗くなり……二時間後……また明るくなる。
(まあまあだった)
そうだねー、と彼女だったら同意してくれそうだ。
せっかく
基本、ループはかなりタイクツなんだ。流れてくるネットニュースは同じだし、当然テレビもそう、毎日ずっと知ってることばかりが起こりつづける。
そんな中、つよい味方は本。
読書すること、これが新鮮なんだ。
おれは読むのがおそいほうだから、だいたい一ヶ月に3冊もあればじゅうぶん。それだけ、おこづかいで買っておけばいい。
今日は三連休の最終日。スポーツの日。
明日からテスト――なのに、おれは外出をして楽しんできた。
「へー、ずいぶん余裕あるじゃんか。勉強もせずに遊びにいってたなんて」
ふらっとコンビニによると
ナマイキにも――というとこいつはおこるだろうが――大人の女性向けのファッション雑誌を読んでいる。
「そっちは家でずっと勉強してたのか?」
「当たり前でしょ。私、頭そんなよくないんだから」
「モア、おれの
「はぁ~⁉ とつぜん何いってんの?」
と、イヤそうな顔になるも、萌愛は立ち読みしてた本をおいておれについてきてくれた。
ならんで歩きながら、
「これ、いるか?」
ホームランの景品でもらった〈うまい棒〉を萌愛にみせた。
しゃっ、とネコみたいなすばやさでうばいとられる。
「レア
「
「飯間さんて同じクラスのあの飯間さん? まーたウソばっかいって」
と言いながら、もう袋をあけていた。
ぱくっ、と一口かじる。かじって、そんなに長くない髪を耳にかきあげた。
「で、悩みは?」
「たとえば誰かを好きになって……」
「まさかの恋愛相談っ⁉」
「きいてくれ。それでな、その子の意外な一面をみてしまうんだよ。ちょっとコワい部分を」
萌愛は考え事をするように、上を見上げた。おれもつられてそっちを見た。
夕方の赤い色と、夜の青い色が半分半分みたいな空。
「もうちょい具体的におしえなさいよ。どうせそれアオイのことなんでしょ?」
そうだよ、とおれは否定しない。したって、もう意味がない。
「なんかされたわけ?」
「いや、まあ、ジェラシーやシットされたっていうか……いきすぎたヤキモチというか……」
「コウちゃん、そういうの女の子だったら誰だってあるから。この私だって―――」
ん?
時間停止……か?
お菓子を食べている萌愛が、そのままうごかなくなった。
歩きながらだったから、足まで止まっている。
「途中でやめるなよ。おまえもあるのか? そういう感情が」
「……べつに」
その返事からあとは、あからさまに無口になった。早歩きにもなった。
こうなると、なんだか質問をムシかえしにくい。
「じゃね」と小声でいって家に入っていく萌愛を見送ると、おれも帰宅した。
(あんま考えすぎないほうがいいのかな……)
しかし〈告白〉にはこたえないといけない。
保留したままなのは、彼女にわるいだろう。
その翌日、翌々日は中間テストで、
次の日の昼休み。
おれのとなりに、となりにふさわしくない人間がいる。
「押しだまらない。もっと軽快なトークで私を楽しませなさい」
ぶおん、と遠心力で髪の毛をふっておれのほうを見る
あの日から、彼女はずっとポニーテールだ。
「あえてきたない言葉をつかうけど、私をオトす気できて。ラテンのノリで
「そうは言ってもさ……」
「あなた、ループを終わらせたくないの?」
教室の外。
カーテン全開なのを確認した上で、さっき深森さんが「出ましょう」と言った。
非常階段につながっている、どういう名称なのかよくわからない場所。ベランダ……で合ってるんだろうか。そこから運動場をながめるように――教室には後ろ姿を向けて――おれたちは横ならびで立っている。
「きょ、今日もとても、めちゃくちゃかわいいね」
「もし私よりもスーパーかわいい子があらわれたら、そっちを好きになるっていう意味?」
「ならないよ。おれには深森さんだけだから」
「……」
再度、ポニーテールを横方向にふった。
後頭部しか見えなくなって表情は不明。
(んー、あとはどんな話題が……あっ!)
思い出した。あれ。
「あ、あの」
「つづけなさい」すっ、と顔の向きがもどっておれと目が合う。いつもと変わらないポーカーフェイス。
「2週間前の土曜日……映画みてた?」
がっ、と片手で肩をつかまれた。
「どっ、どうしてあなた、それをししし知ってるのっ!!!???」
「いや、そんなにおどろかなくても。偶然、うしろの席にいただけだから」
「あれは中学生の男の子が興味をもつような映画じゃないでしょ!」
「終わったあとに、ハンカチで目元を――」
「あーあー! だまってっ!」
つかんでいた手をはなしてバイバイのようにふる。
ふと、教室に目線がうつった。
おわっ⁉
ほぼクラスメイトの全員が、こっちをガン見してる!
「別所くん。その記憶はただちに全消去で。いい?」
「お、おーけー……」
「そしてすでにタネはまいた。このメは、明日の朝に出るでしょう」
「えっ?」
「いつもより一時間はやく登校。さもないと世話を焼くのもこれにて終了」
ラップみたくインをふんで、深森さんは非常階段へ歩いていった。
い、一時間もはやく家を出る……のか?
しょうがない。今日ははやめに寝るか。
―――翌朝。
「昨日のあの行動によって、かならず二枚目の〈
メガネの横に指先をあてながら、深森さんは言った。
「犯行現場をおさえられたら、彼女も言い
あなたしだいね、と指をピストルにする。
おれはフクザツだった。
だって、こんなことをしたら、
たしかに「近づくな」とか書いてオドすのはよくないことだけど……。
告白を保留しつづけてるおれにも、責任はあるような気がするんだ。
でも今さら中止にしてくれとも言えない。
(あとはおれしだい……か)
待つこと40分から50分。
とうとうそのときはやってきた。
思わず何か口走りそうになったおれのくちびるに向かって、深森さんが人差し指をタテにする。「しっ!」
(こんなに思いどおりになるなんて)
おそるべし、すぎ。
あらかじめ靴箱の位置はカドの一番下よ、と彼女はおれに教えてくれていた。
そこにしゃがみこんでいる人影。
むろんセーラー服の女子だ。
「もう。バレるからそんなに身を乗りださないで」
「ごめん」
靴箱に近い大きな柱のカゲに、おれたちはいる。
ここなら、ばっちり江口さんのことが―――
「あの……二人でなにしてるの?」
「えっ?」「えっ!!??」
おれと深森さんがほとんど同時に声をあげた。
おれはともかく、彼女がこんなにきょとんとした表情になるのはめずらしい。
反応も、カミナリが落ちたときと似ていた。
とっさに抱きつくようなそぶりを見せたが、せいいっぱいのブレーキでおれに伸ばしかけた両手をピタッととめたのがわかった。
ゆっくり二人でふりかえると、
「?」
無言で首をかしげる――――江口さんがいた。
まじで江口さんか? とおれは必要以上にじろじろ見てしまう。エンリョもなく、顔、胸、腰、足と。
首をターン。
あっちにも、いる。
靴箱にモノを入れ終わったのか、しゃがんでいた姿勢から立ち上がったところだ。
「おーっ、おはよー!」
「………………おは」
からっとした萌愛の声が、あたりにひびいた。
そして、いま返事をしたのが、おれたちがずーっと江口さんだと思いこんでいた人物。
「どうかした? なんかきょろきょろしてる?」
「べつに、べっしょ。それはモアちぃの未来のダンナさんの名前」
「もー、朝からくだらない冗談はやめてよー! ヤッちゃん!」
ぱしん、とスナップをきかせた手で肩をたたいた。
あいつの親友の
「未来といえばね、ヤッちゃん。私……いっこ知ってるんだよ、この先の世界のこと」
「ほう?」
「今から一年後、戦争がはじまっちゃうの」
「それは悲しいお知らせ」
「ねっ。私もさぁ、なんとかならないかな~って思うんだけど―――」
ギリギリ会話がきこえる距離。
萌愛は、すぐうしろでおれが盗み聞きしていることに、気づいていない。
「ちな、どこ?」
山中の問いかけに、萌愛は即答した。
それが耳に入った瞬間、
ぴりっ、とおれの体に小さなカミナリが落ちた。
(おいおい……)
あいつは冗談でこんなことをいうヤツじゃないと思っていたが。
いいや、冗談にしてもタチがわるすぎる。
(萌愛。おまえも行き先ぐらい知ってるはずだろ?)
その戦争になるっていう国は、おれの転校先なんだぞ。
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