肆番線 学校定着

 時刻は7時58分、外回りの省線山手線231系に乗り込み上野に向かう。

 鶯谷駅から上野駅に向かう緩い右カーブを曲がると少し長い直線に入る。

 ふと昨日重機関銃が撃ち込まれた常磐線側にある建築資材置き場を見ると、ドラマでよく見る「関係者以外立ち入り禁止」の黄色いテープが蜘蛛の巣のように貼ってあった。

 よく見ると昨日女性と共にいた陸軍の隊員たちが何やら調査しているようだ。

 もうすぐ駅に着くからかスピードも落ちていたので隊員たちが携帯のカメラをズームさせ見てみると写真を持っている姿や、クリップボードになにか書いているのが見えた。

 「朝から御苦労さんだな 」 

 翼は残念そうな顔をしながら言う。

 「どこの番組もそのニュースばっかりでいつもの猫紹介やってなかったよ、お父さんも昨日は帰って来れなかったんだ 」

 翼のお父さんは鐵道省で運行管理の仕事をしている。それの関係で省内に残り一夜を過ごすことも多いようだ。

 「そりゃ寂しいな 」

 「大和こそお父さんと最近会ってなかったんじゃなかったっけ? 」

 俺の父さんは仕事の関係で小さい頃から家を開けることが多い。だからそう言う状況には慣れている。

 「しょうがないよ。それに父さんが仕事してる姿かっこいいしな 」

 と誇らしげな笑顔を翼に向ける。

 《上野、上野》

 7号車近くの階段を登りコンコースに出る。

 高崎線や常磐線の出入り口もあり、とても人が多い。

 上野駅は駅構内にはカフェや惣菜店などいろいろある。

 駅構内にこんなに必要か?

 惣菜店の自動ドアが開くたびに朝の胃袋を刺激するような美味しい匂いが漂ってくる。

 「いい匂いだ、なんかお腹すいてきたな 」

 「朝から食欲旺盛だね大和は 」 

 「まあ成長期だからな 」

 入谷口にいる駅員さんにSHOUKA定期券を見せる。

 「はい、いつもご利用ありがとうございます 」

 「SHOUKA 」は鐵道省、陸軍そして海軍が共同で開発したICカードだ。このシステムは瞬く間に拡大し半年足らずで全国に配備された。今や帝都から大陸までこのカードひとつで行けてしまう。 

 当時は導入から半年で全国普及は不可能とされ予定を調整するように話し合いもされていたが軍部が「出来ぬ出来ぬは努力が足らぬ 」とごり押した。

 これだから軍部はと言いたくなるが確かにこのシステムは便利だ。

 だがどの駅も主要な改札口にのみ配備されていて入谷口のように人の出入りが比較的に少ない改札には設置されていない。

 昨日とは違いゆっくりとコンコースを歩いて学校に向かう。 


 カンカンカンカン…...

 おっ、この音は? 

 学校に行くには営団銀座線の車両基地と営業路線からの引き込み線の真ん中にあるこの踏切を通る。 

 え?鉄道好きなら毎朝地下鉄が見れて最高じゃないかって。

 たしかに入学式から3ヶ月くらいは楽しかったが最近は見慣れてきて日常風景の一部と化している。

 だが一つ例外もある。

 それは踏切を車両が通るこの瞬間だ。

 普段は見れない集電プレートがチラチラっと見えるのが何だかとても新鮮だ。

 銀座線は開業当時コスト削減のためにトンネルを小さく作った影響で通常の架線集電ではなく第三軌条方式という集電方式になっている。

 この方式にすれば台車の横に集電板をつけるだけで済むのでパンタグラフを使うやり方よりもかなりスペースが削減できる。

 最後の一両が通過すると引き込み線と車両基地側に上から柵が降りてきた。

 その後に遮断機が上がり俺たちは歩き出す。

 1435mmの軌間を一回で渡り切るために少々足をいつもより伸ばして渡り切った。

 「この幅なら300kmも余裕だな 」

 ともう一本の線路を跨ぎながら言う。

 翼は手を口に当て、母親のような優しい笑みを浮かべてこちらを見る。

 「朝から元気だね大和は 」

 そんな優しい顔をされたら照れちゃうじゃないか。

 俺はその恥ずかしさを隠すために少し早く歩いた。

 

 学校に着き学生証を改札機のような装置の側面に当てる。

 すると装置からは近未来的な音がして扉が開く。

 ピッピッ

 「あれ?上手く反応しない…… ちょっと待ってぇ〜〜 」

 この装置は大変感度が悪く少しでも当たる位置が悪かったりカード一枚でも挟んでいふと扉が開かずエラー音が鳴る。 

 学校にはエレベーターが何台が設置されていて便利だが混むことも多い。  

 いつもの時間帯に来たので大丈夫だったが、これが5分遅れると階段を使うことになってしまう。

 

 エレベーターで教室に上がり1ーC教室に入る。

 俺が窓側一番奥の席、翼は窓側から2番目の一番後ろの席で、俺の隣だ。

 ピンポンパーンポーン

 ガラガラガラガラ

 チャイムと同時に扉が開き先生が入ってくる。

 「はい、それじゃあ今日の号令は参宮」

 翼は少し慌てて「起立」と大きな声で言った。

 「気をつけ、礼」

 「「おはようございます」」

 ガラガラと音を立て椅子をひいて座る。

 「おはようございます。今日は特に…… あっそうだ、昼休みに省庁大学校入学研修プログラムのレポート提出あるから参加希望者は忘れないように 」

 

 朝の朝礼も終わりいつも通りに授業が始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る