第3話 牛乳とラーメン

 明日は久々の連休でりょう君が戻ってきてくれてデートだ。


 明日の服装どうしようかな……


 牧場だから帽子はいるね。昔買ったのあったかな?


 当たり触りのないワンピースが無難そうだよね。


 取りあえず今日は亮君との食事以外食べないでおこうかな、きっと明日いっぱい食べるよね。


 下着は……


 念のためちょっと攻めちゃっとこ。


……


「りょうく~ん!」


『相変わらず亮君の服装はシンプルだ。白いシャツに黒のパンツか。うん、似合ってる』


 駅のロータリーから亮君が手をふってくれた。


「お待たせっ」


 さあ、牧場デートだ。


「乳絞りして牛乳飲んだり、バター作り体験とかソフトクリーム、楽しみだよね~」


「りり、それ全部食べる系じゃん。餌やりとかもあるだろ?」


「それは時間があればねっ」

 バスの中で会話を楽しむ。


 到着して早速、今日の体験時間の案内を見て、わたしはスケジュールを練った。


『せっかくのデートなんだからなるべくスムーズに楽しみたいな!』


「決めたっ! 喉渇いたから牛乳飲んで、お昼してからバター作り体験してソフトクリーム!」


「まあ、時間的にもそれがいいだろうな。でも、牛乳飲むんじゃなくて、搾乳体験だろ?」


 細かいことは気にしないで。と言って、牛舎に移動して一通り説明を受けてから、乳牛の隣に亮君としゃがむ。


「どっちがうまく出せるか勝負ね」

 わたしは戦闘態勢に入る。負けないんだからっ!


「お~すご~いっ、シューって勢いよくでるねっ!」

 なんかセンスがあるみたい。


『このまま行けば亮君に勝てる!』

と思ったとき、事件は起きた。


 牛がわたしの方に一歩近づいて、その圧に押された。


「キャッ!」


 わたしは態勢を崩して、後ろに尻餅をつく一歩手前で地面に手をだし身体を支えた。


『なんとかギリギリセーフ!』


 そう思っていると亮君の視線がスカートの中にいっていることに気づいた。


「ちょっと~、りょう君絶対見たでしょ~!」


「りりっ!」


『そう言えばなんだか顔にかかってる』


「大丈夫か?」


「びしょびしょ~! あ、でも濃厚で美味しい~っ」

わたしは舌を出して口の回りをペロペロ舐めた。


「おいおい、先に顔拭かないと」


『こんなに美味しいんだ。いい体験できたね!』


 飼育係さんが慌ててタオルを持ってきてくれた。


「大丈夫か?」


「うん、ギリギリで手をついたからスカートは大丈夫そうだし、顔だけ~」


 そう伝えてタオルで顔を拭いた。


「なら、よかったよ。勝負は引き分けな」


「それはいいけど、絶対見たでしょ~!」


『勝負下着ってバレてないかな?』


「まあ、りょう君だから、別にいいんだけどねっ」


 わたしは恥ずかしくて照れながら亮君の顔を見上げた。


「ならよかったよ。でも思ったよりセクシー系だったけどな」


 亮君がそんなこと言うから、恥ずかしくて顔も耳も熱くなる。恥ずかしすぎる。モーモー言って、亮君の胸をポカポカ叩いた。


「さあ、りりの楽しみの牛乳飲もうよ」


 そう言って牛乳交換所を指差す。

 この牧場は搾乳体験をしたら、牛乳が一杯無料で飲める。


「そうだねっ、いこいこっ!」


『やっぱり、牛乳は飲んどかないとね。昨日あんまり食べてないからお腹もすいてるし』


 コップに一杯ずつ牛乳を受け取る。


「やっぱりこれ飲むときは腰に手を当てないとだよねっ」


「それはテレビの見すぎだろ?」


「りょう君も一緒にしようよっ!」


 まあ、人も少ないし大丈夫だろうと二人で腰に手を当てる。


「「いただきますっ!」」


 いつもどおり亮君がわたしの様子を見てる。


『ゴクッ』


「うん、普通の牛乳より濃厚~! あ、でもさっき舐めたのよりは、甘さが少しない気がするなあ」


「そりゃあ、殺菌処理とかはされてるだろうからな」


『あ、そうなんだ』


「なら、私は貴重な味見ができたんだねっ!」


 腰に手を当てたまま、わたしはラッキーだと思って、再度勢いよく牛乳を飲む。


『ゴクッゴクッ』


「ぷはあ、やっぱり普通に買うやつよりは濃厚だし、まろやかで美味しいね~」


 亮君も一緒に飲んだ。


「ほんとだ、濃厚で美味しいな」


 わたしは一気に飲み干した。


「お昼はなに食べる? あ、あれにしようよっ、ミルクラーメンだって! あ、牧場ラーメンもあるよっ!」


『さあ、次のイベントだね。亮君があきないようにしないと』


「りょう君は牧場ラーメンね、私はミルクラーメンに決めたっ!」


「まあ、別にいいけど、決めるの早すぎだろ」


『こゆとこはさっと買って時間短縮をね』


「味見のしあいっこしようね!」


『どっちも気になるもん』


「わかったよ」


 亮君のはトマトとか野菜たくさんに、バターとチャーシューがのっている。


 わたしのはミルクラーメンで手作りソーセージとコーン。バターはお好みでできる仕様になってる


『味変できてうれしいなっ』


 そう思いながら、ラーメンが置かれたお盆を受け取る。


 椅子に座って亮君と目を合わせる。


「じゃあ~、一緒に~」


「「いただきますっ!」」


 いつもどおり亮君は、わたしの様子をまず見る。


 わたしは帽子が邪魔だから脱いで、髪がスープにはいらないように耳にかけて麺を持ち上げ、『フーフー』した。


『ズルッ』


「う~ん、麺がモチモチッ! ちぢれ麺だから、スープも思ったより絡んで濃厚で美味しいっ!」


『ズルッ』


「鶏ガラスープベースだね。そこに牛乳の濃厚さが合わさって相乗効果がでてるよっ」


 箸が止まらない。


 亮君も食べ始めた。


『ズルズルッ』


「うん、おれのも美味しい。野菜の味もいい感じだな」


「このウインナー、牧場で作ってるんだって」


 事前に調べておいた。


「噛んだ瞬間、肉汁が溢れるよ。肉も荒みじんと普通のみじん切りが混在してて食感もいいし、香草もいいね。なんたって油が。ジューシーだよ!」


『ほんとにこの油上質だね。ウインナーをチューチューしたら、どんどん美味しい油出てくるよ。』


なんでか亮君が照れてる。


『牧場ラーメンもかなり美味しそう!』


「りょう君、交換しようよっ」


 わたしは提案してラーメンを入れ替える。


『ズルッ』


「お~こっちは豚骨スープだね~。野菜の出汁もしっかり出てて、トマトの酸味がアクセント。スープパスタに近い感じだねっ」


『スープもちゃんと変えてるんだ』


「どっちも美味しいよな」


「じゃあ、お楽しみしたいから返すねっ」


 わたしはラーメンを返してもらう。


「さぁ、お待ちかねのこれこれっ」


 バターを投入し、スープを混ぜて溶かしこむ。


『ズルッ』


「う~んっ! さっきよりも濃厚でコクもたされて、口の中にバターの香りが膨らんで、美味しいっ」


 さすがに熱くて額に少しの汗をかきながら、ラーメンを食べてちゃってる。


『ゴクッ』


 最後は器を持ってスープを飲み干す。


「ぷはぁっ。このスープなら、もう一杯飲み干せそうっ!」


「それはやりすぎだろっ」


 亮君もスープを飲み干してくれた。


「美味しかったね~」


「「ごちそうさまでしたっ!」」



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