第30話
買ってきたサンドイッチのフィルムを剥がす音がして、晶は昼ごはんの為に屋上へ来たことを思い出し、自分の焼きそばパンを袋から急いで取り出した。
「焼きそばパンって変な食べ物だね」と、二階堂はジッと晶の手元を見つめた。
「なんで?美味しいよ?」と、晶は見返した。
「だって、パンと焼きそば、一緒にしなくていいんじゃない?」
「――マンマミーヤ。いやいや、パンと焼きそばを一緒に食べるから美味しいんじゃん。コッペパンの包み込むような優しい甘さにソースのスパイスとコク、それから麺の味が混じって、口の中でハーモニーを奏でるわけだよ。ちょっと食べてごらん」
晶は強引に焼きそばパンを引きちぎり、麺がボロッと落っこちそうな方を二階堂に差し出した。
二階堂は、笑いながら受け取ると、どこから食べたらいいのか眺め回した。こんな風に食べやすそうな箇所を見つけようとする所や、結局はみ出た麺をパンに戻そうとするあたりが、二階堂という人間の利口さを示しているように晶には思えた。
「うん、意外とイケるな」
そんな風に思っているような表情をして、二階堂はゆっくり焼きそばパンを味わっている。
二階堂を見ていると、穏やかな朝の海に浮かぶ帆船のようなのだ。このぐらいの年の子にありがちな忙しなさや小うるさい感じが伝わってこない。落ち着いているのだ。大人っぽくて、静かな雰囲気に包まれている。それでいて照れ屋な性格には十代らしい初々しさがあって好感が持てる。
背が高くて痩せた身体つき、一重で切れ長の清涼感漂う目元。肩に届かない髪にはいつも寝癖がついている。
こんな人、愛さずにはいられないと、晶は思った――。
裏門の、温かい春風の道のことをまだ誰にも言った事がなかったけど、この人と一緒に見たら楽しいかもしれないと晶は思った。
「今日か明日、一緒に帰らない?」
「え、今日華道部の日だから。――なんで今日か明日なの?」
「この時期だけ裏門がいい感じなんだ、春風で」
「ふぅん。じゃあ、明日ならいいよ」
芸術系と理数系のクラスに分かれている二人は、これまで一緒に帰る機会がほとんどなかった。
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