第四章 『あ』と言ったら『うん』と応えて!?

第28話  

 朝一番の授業はボーッとしがちだった。窓側の席になって以来、晶は隙さえあれば空を眺めた。


 春の空は淡いな。


 ぼんやりしていると雲がゆっくり流れるのが見えて、家の窓辺で日向ぼっこをする犬と猫と小鬼を思い描いた。

 寝っ転がった動物がいるリビングで、祖母は今頃テレビかチラシでも見ているのかな。今日も裏門から帰ろう。

 晶はこの時期だけ、裏門から帰るようにしている。春になると、裏門から出てすぐの道路は南風の空気で満ちるのだ。毎年のんびりした顔をして春はやって来る。

 ずっと昔、気の利く誰かが春を過ごす人のために門を挟むように桜の木を植えてくれた。だから、今もその恩恵を受けられる。晶は春になる度、大きな桜の木をそんな風に思った。

 ゆるやかなそよ風に、花びらはふわりふわりと舞って、今年もまたどこかへ行ってしまう。満開の桜が見られるのは、二日か三日ぐらいだったろうか。

 

 あぁ、春の時間を、小鬼にも見せてあげたいな。喜ぶかな、大した事ないって思うかな、どんな風に思うんだろう。晶は取り留めもなく思いを巡らせ、気づくとまた空を眺めていた。

 そして、陽気が良いから川沿いを通って駅前のCDショップへ寄って行こうと帰りの段取りまで考え始めていた。

 高校から徒歩十分の所に小さな駅があるのだが、最近駅周辺が開拓され始め、新しい建物やビルのようなマンションが増えてきている。前までは古ぼけた歯医者と和菓子屋、コンビニや何かがあるだけだった。

 しかし、ここ一二年でカフェや古着雑貨店、美容院、ドーナッツショップ等の目覚ましい新顔が参入してきたのである。

 学校側は生徒に帰りはまっすぐ帰宅のことと喚起しているが、教師も生徒も皆駅前に寄って帰る。

 新顔の一人であるCDショップには、その時々で最新のポスターが貼ってあって、ヒップホップとかヘビメタとか普段は聴かないジャンルのアーティストでも名前やファッションなどの印象がなんとなく入って来るのだった。

 買う物が無い時でも、晶は気軽に立ち寄っては店内をうろうろした。音楽雑誌のコーナーや試聴ブース、それから映画のDVDコーナー等々、自分なりの見て回るコースが出来てきているのだ。

 たまに、レトロな音楽特集とかインディーズ特集とか小さなイベントをしていて、一箇所に集められたCDを漁るのも情報収集であり楽しみの一つだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夕陽から飛びだして来い 山と空 @kogumaza

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ