第27話
そうしてある日、猫への気持ちが複雑になってしまった晶は、
「みんながみんなお前に甘いと思うなよ」と、ソファで寛ぐ猫と目線を合わせて言った。
猫は腹の据わった様子で顔を起こしたまま横たわり、優美なクラシック音楽でも聴いているかのような、夢の中といった目をしている。
人間には無い全身を覆う美しく細かい毛並み、雑言を意にも介さない悠々たる態度、その素晴らしさはそのまま移ってくるみたいに、そのうち晶の目も感情も染めて行ってしまった。
晶は気づくと、口を開けて見惚れていた。
そして、感動は光の速さで身体中を駆け巡り、ある強い想いに駆られた。
――ふかふかの胸の中に飛び込んでしまいたい。
「ジールたん」と、家族が話しかけると、
「ニャーン」と、優しい音色で返事をし、猫はまるで人間の言葉を理解しているみたいだった。
また聞きたいと思わせるような、甘く純粋な声だ。
天春家では一番早くに起きるのは祖母でその次が父、姉、晶なのだが、いつからか猫は家族が全員必ず朝になるとダイニングに来ることを覚え、食卓の上で祖母がこしらえてくれた小座布団に鎮座していた。
父は、
「毎朝、みんなを迎えてるんだよなぁ」と云うが、定かではないと晶はまだそのように思っていた。
だけど、小鬼と犬と三人で、日の出を見に行こうと早起きをした日。ジルは寝床から起きてきて、玄関で三人に向かって一鳴きした。
それが、「きっと帰っておいで」と、言っていると、不思議だけど伝わってきた。
晶は、しばらく猫の見送りを見詰め、
「行って来るね」と、ささやくと、ドアを静かに閉めた。
以来、晶は毎朝、食卓で寛ぐジルに「おはよう」と言うようになった。そうすると、あの優しい声で「ニャーオ」と、必ず返事をしてくれる。
小鬼も「おはようー」と、毎朝ジルに言った。
「今日も一緒に過ごせるね」って、言ってると、小鬼はジルの言葉をいつも翻訳した。
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