第12話
泣き止んでも、小鬼の言葉が過ぎるとまた涙が出て、母を思った。母の幸せは晶にとって、この世界で最も大事にしたい事だった。
母が泣いたのを思い出して、胸の痛みに苦しむ日々が終わる。母の無念はもう終わった。そう思える。
晶は落ち着くと、家族にも知らせたいと思った。皆、ずっと心に大きな穴が開いたままなのだ。
もうずっと、無言で泣いていた父と姉の姿を忘れる事はなかった。
「母が極楽で干し柿を友達と作っていること、家族に話してもいいですか?」
晶は潤んだ瞳で、小鬼を見つめて言った。
「話せ、話せ」
小鬼はうなずきながら言った。
晶は階段を駆け下りて、リビングで寛ぐ姉と食卓でチラシを覗き込む父に大きな声で言った。
「お母さんは、極楽にいるよ!友達もいて、干し柿作ってるんだって!」
二人は晶を見て、それから元の場所に視線を戻した。返事もせずに、のどかな週末の正午に準じている。
晶はすぐに状況を理解し、少しがっかりして自分の部屋へ戻って行った。夢の話か何かだと思っているんだ、でもそうでもなかったら叱られてる。怪しい宗教に関わったか占いか何かだと思われるかもしれなかった。
部屋に戻ると、小鬼は窓辺で本を読んでいた。よく見ると、本棚にあった晶の漫画だ。呑気でいいな、晶は鼻でため息をついた。
小鬼は小刻みに笑い、どこから持ってきたのか饅頭を食べている。
「その饅頭どうしたんですか?」
晶が聞くと、小鬼は漫画を見たまま高校のカバンを指差すと、また小刻みに笑いだした。
そういえば、高校で二階堂にかりんとう饅頭をもらったけど、あれ?
――あれを?
晶は、カバンの中をかき回して、最近知り合った子がくれたかりんとう饅頭を探した。美味しいから食べて欲しいと買ってきてくれた友情の兆しを感じさせる代物だ。
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