inside1:実と央
両親や他人から見れば実と俺は仲の良い兄弟に映っていただろう。
でも、本当はそうじゃなかった。
二人だけになった時には喧嘩もしたし、言い争って数日ぐらい引きずった事もある。それだけなら普通に喧嘩もするけど仲のいい、何処にでもいるただの兄弟で済めばよかったのだが、両親が効率とバランス重視で近所付き合いや人間関係でも自分達の評判を悪くするのは好ましくないと小さい頃に教えられた覚えがあるから、血が繋がっている親の前でさえ仲良く見せていた。
何より何でも出来て多忙である筈の親から褒めて貰って愛情を注がれ、期待を向けられている兄が嫌いだった。
実も俺を見下していたし、昔から実の部屋にある物を簡単に俺に触らせてくれなかった。円璃や律紀がいる前では俺にも優しい演技をしているから、その時だけ本とか使わせて貰えるけれど、二人の時になる度に上から目線で物を言われてきた。
『お前も馬鹿じゃないんだから分かるだろ』
『勝手に俺の部屋に入るなよ。此処はお前の物じゃないんだから』
『はは、何これ。頭悪。こんな完璧じゃない点数じゃ褒められなくて当然だよ』
穏やかで優しくて完璧な兄の仮面を外した実の言葉一つ一つが俺の胸の中に重く圧し掛かる。それに反発した俺の言葉もどうでもよさそうに流されて、また新たに実から馬鹿にした反論が飛んでくる。いつから始まったのかはもうよく覚えていない。ただ、仲の良い兄弟という役割を演じて、舞台を降りれば仮面を外してお互いを気遣わない。そうやって繰り返して一日が終わる日が多かった。
円璃と律紀に対して穏やかな声色で話したり構う兄の姿を見ると、苛々して仕方なかった。何故実が兄で、俺が弟だったのかそう考えてしまうほどには。
それでも俺達は歪で仮初の日々を過ごすことを選んで生きていた。
『お前はいつまで経っても――』
そう言って俺を見下ろす実の無表情と共に発された言葉は、今でも俺の胸を貫き続けている。
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