いつもいっしょ

@tonari0407

はなれない

 僕には生まれたときからずっと一緒にいる大事な友達がいる。


 僕たちは共に時を過ごし大きくなった。


 ずっと気配は感じていたのに、君がどこにいるのかわかるまで時間がかかった。


 君の事をはっきり見てからは楽しく一緒に遊んだね。

 僕らが好きなのは外遊び。身体を動かして駆け回るのが大好き。


 一緒に走る夏の日。

 君と笑いながら走る僕を見て、お母さんは

「急に飛び出しちゃ危ないよ」って叱ったっけ。


 楽しいんだから仕方がなくない?

 今日このとき、今ある瞬間を僕らは満喫した。


 他のどんな子よりも君は僕のことを分かってくれる。他の友達なんていらなかった。


 無理やり家の中に閉じ込められるのが嫌。君は家の中では縮こまっていて遊んでいても楽しくない。


 外がいい。お母さんはわかってくれない。

 僕の好きなものは君にも食べさせたいのに、お母さんは悲しい顔をする。


 なんで? 友達には優しくしろって先生も言ってたよ?


 お母さんの言っていることはいつも訳わかんない。だから、僕は僕の好きなようにする。


 泣いてる。お母さんが泣いてる。


 君が、謝らないといけないよ。

 って言うから僕は渋々言葉を発した。


「お母さん、ごめんなさい」


 僕の言葉を聞いてお母さんは僕を抱き締める。

「叩いてごめんね。痛かったね。ごめんね。ごめんね」


 本当に悪いと思っているなら、もうしなければいいのに……。

 全然反省していないのか、お母さんは同じことを繰り返す。何度も。


 君がいくら僕をたしなめようと、次第に僕はお母さんに謝らなくなっていた。

 君は側で見ているだけで、痛いのは僕だけだから気持ちがわかんないんだろうと思う。


 ある日、食事を君にあげた僕は、お母さんに酷く殴られた。お母さんは泣きながら僕をぶつ。ご飯もあんまりくれなくなった。


「もうこんなのいやだ。僕なんて消えちゃえばいいのに」


 そんなこと言うなよ。


「君には僕の辛さなんてわかんないだろ! 」


 ……ごめんね。


 君が泣いているのがわかる。僕は心の中で『ごめん』と言って、そのまま眠りに落ちた。


 ◇


 夢の中で君に会った。君は僕に黒いマントをくれた。僕のつけていたキラキラ光輝くマントを代わりに羽織る。


「もう悲しまないで。あとは任せて」


 ◇


 目が覚めると僕はもう痛みも空腹も感じなかった。君が側にいるのがわかる。


 君はお母さんに言う。


「お母さん、もう『僕』のこといじめないで。 これ以上『僕』にお母さんを嫌いにさせないでよ! 」


 今までお母さんを責めることがなかった僕に代わって、君は勇気を出して声をあげてくれたんだ。


「みんなあんたのせいでしょっ!」


 結果は逆効果だった。

 君の身体が跳ねる度に、後ろで縮こまる僕の身体も少し動く。でも痛みは感じない。


 君の感情が伝わってくる。あんなに痛そうなのに君は喜んでいた。


 なんで?


 君は動かなくなる。僕はそっと君に寄り添った。


「『僕』の辛いことはこれで終わり。見てるだけは……もういやだ」


 それが僕と君の最後の言葉。


 ◇


 僕と君は手を繋いで、次の扉への道を歩いてる。僕は君に言った。


「ねぇ、今度は代わりばんこに遊ぼうよ?

 その方がきっと上手くいくよ」


「そうだね、『僕』を見てるのはもうこりごり」


 僕たちは約束の指切りをして、扉を開けた。


 ◇


 僕たちの次の身体は女の子だった。それもまた楽しい。


 寝ているときにマントを交換して入れ替わる。君とはずっと一緒なのはわかっているから、他の友達とも遊ぶようになった。

 

 僕は我慢するのが得意。

 君は勇気を出して挑戦するのが得意。


 僕は君の影で

 君は僕の影。


 僕たちはいつもいっしょ

 絶対にはなれない。

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