第十六羽 おっさん、調薬してみる。

子供らが家から取ってきた腐りかけの果物を受け取る。匂いがもう酸っぱいわ。よく見ても都合よく鑑定とかできるわけでもないからとりあえず果樹の幹に擦り付けるようにしてみる。うん、変化なし。これじゃ無理よねえ。

「ピ。ピ」

「うん?どうしたベリル。何咥えて…」

思案していると足をつつくベリルが何か咥えているのに気づいて手を差し出す。


「あ、これ薬草か?」

「ピィ」

手に落とされた葉っぱは虫除けに燻して使う薬草だ。これをわざわざ持ってきたのはあたしがやろうとしてることを理解してるからよね。うちの子ったら可愛い上に賢いわあ〜。

「…そうだ」

ものは試しよね。思いついたのはこの薬草と酸っぱくなった果実を混ぜてみるってこと。調薬なんてやったことないんだけどさ。


荷袋の中からいつも使ってる小鍋を出してその辺で拾った棒を使ってとにかく細かくなるまですり混ぜてみる。まず薬草よ。簡単に潰せるからすぐに青臭い匂いが立ってきたわ。そこに腐りかけて柔らかくなってる実を…ちょっとやりにくそうだから先に少し小さく切って入れましょ。更によーく混ぜてどろどろにする。うーんこんなもんかしら。

「これで…どうだ?」

混ぜてる間離れたところで地面を啄んでたベリルに声をかけると近寄ってくる。ちょっと顔を寄せるとぷいとそっぽを向いてケッケッと咳き込むような。おいおい。あたしも試しに臭ってみてゲフッと来たわよ。くっさああ。青臭さと酸っぱさがなんとも言えないマリアージュを遂げていたわ。


くっ。これ効かなかったら最悪よ…!地獄のダークマター作っただけじゃないの!

「試してみるぞ」

向こうで涙目で鼻を押さえてる村人たちに聞くとためらいつつ頷く。虫のせいで苦労してるから効きそうなら何でもやってみようって気になるもんね。臭いけど。

とにかく手近の木の周り、さっき実を擦り付けた木ね。その辺りにどろどろの液体を撒いてみたわ。そこに新たな虫がちょうど飛んできて…。

「…あ」

フラフラとよろけたように不自然な飛び方になり。

「落ちた」

ボトッと。


「や…」

「やったあああ!」

「あ、ありがとうごぜーますだー!」

「作り方を教えてくだせえ!もちろん報酬は出しますじゃー」

「村中で作るどー!」

「お、おおう」

怒涛の勢いに押され薬草を腐りかけの実と混ぜる除虫薬のレシピを教えたわ。集団の勢いおっかないわ…。薬草はまたベリルが取ってきてくれたのでそれを使ったのだけど、どうやら果樹の半径10メートルくらいに生えてたみたい。もしかして最初から共生関係があったのかもしれないわ。草は木の養分をもらい木は草に虫除けしてもらうとかありそう。


でも、だとすればやっぱりこのでかい魔蟲は異常ってことね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る