第十五羽 おっさん、虫を討伐する。
「うげえ」
きっも。
うぞうぞと虫がたかる様子は気持ち悪いわー。赤茶色したてんとう虫に似た虫。それが木の根本にまでいっぱい。まだ数本無傷なのが奇跡なくらいよ。とにかく払っても払っても集ってくるんだとか。水をかけると一度は離れるんだけどすぐ戻るし、何度もかければ木の方が根腐れを起こしてしまう。それで、ヒトが見張って払ってるんだけどキリがないのね。一応魔物だから一般の村人じゃあ潰せない固さだし。そこであたしたちの出番って訳ね。
「よろしくお願いしますじゃー」
「はいよ、じゃああんたらは下がって。ベリル、頼むぞ」
「ピィ!」
ベリルが近づくとさすがに天敵だからか虫たちが逃げ始めたわ。羽虫だったのよね…。いくらかはベリルがついばんでるけど残りはあたしが斬り払う。だけど細かいし纏まってないとなかなか…果樹に傷をつけないように気を使うし、けっこう苦労したわ。とりあえずここに居た分は倒したけれどまだまだいると思うの。巣を見つけて潰さないと。
「せいっ、よし、ここは終了!」
「ピピッ」
「ああ、久しぶりに木の幹が見えますじゃーありがたやーありがたやー」
村長のありがたやーをBGMに虫のいなくなった果樹を見ると葡萄みたいな実も傷ついて落ちているけど樹皮の方の傷がひどい気がする。カブトムシみたいに樹液を好む虫かしら?
木の幹についたかぎ裂きのような傷を指でなぞるととろりとした樹液がまとわりつく。そっと匂いを嗅いでみると甘い匂い。メープルシロップみたいな琥珀色。やっぱりこれに集ってたのね。
「ピピピ、ピョロ」
猫が喉を鳴らすような声を出したベリルがあたしを見ては指をつつく。
「これ欲しいの、か?」
「ピィ」
たっぷり指ですくった樹液を差し出せば嘴を斜めにせわしなく動かしてすくい取るようにして食べだしたわ。目を細めて嘴を動かす様子はとても美味しそう。これは好物ね。樹液も一部報酬としてもらいましょ。
それにしても虫除けかぁ。ナントカ島とかナントカ村では天然成分で作ったスプレーを使ってたけど酢を入れてたかなって曖昧な記憶しかないわ…木酢液って言ったっけ?もっとよく見とけば良かった。というか酢ってあったかしら?覚えてる限り果物の酸っぱいのくらいしか酸味ないような…腐りかけのヤバイヤツはノーカンよ!ああともかく、酸っぱいのを散布してるイメージくらいしか湧かないのだけど。…待てよ?もしかしてそういうのでいけるかしら。
「村長よ、ここらで果物を発酵させたりした酸っぱいのってあるか?」
「はて?どうじゃったかのー」
後ろに下がって避難してた村人に呼びかけると曖昧な返答だ。だが更に後ろから見ていた子供が声を上げる。
「じっちゃーあっただよ、あれあれ」
「んだんだ。酸っぱくて食えねえって放ってたのあったべ。必要だべか?」
「あー多分それ要るわ」
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