第九羽 おっさん、隣町に入る。

「生きてるかい」

「う…あなたが、俺を?」

男性貴族は頭から血を流していたけれど意識ははっきりしているらしく、斧を持ったたくましい男に目を向けたわ。

「あー殆どはあっちのやつが倒してたが、な」

「そう、か。だがありがとう。危ないところを…くっ」

「無理するな。血が出てんだ、ほら俺が連れてってやる」

「あ…、す、すまない。ありがとう…」


男性は斧の男に抱き上げられて街に入っていったわ。どうやら応援で呼ばれて駆けつけた人だったみたい。誰より先に到着して窮地にあった男性を助けるとか。



………ス、テ、キ!

ああん、さっそく素敵なカップルに会えたわ!


「あー先程は、どうも…」

遠慮がちに声をかけられてはっとする。

「ああ、いや。たまたま最後尾にいたしな。魔物討伐は本業だ」

「ご協力、感謝します」


兵士の言葉ににっと笑顔で返せば兵士も穏やかに謝意を告げた。

有名でもないいち冒険者にもこの態度だから、好感が持てるのよね。やはりこっちに来て正解だわ。


「良ければ一緒に冒険者ギルドに報告に行きませんか。事後報告にはなりますがきちんと依頼として報酬も出します」

「そりゃ、ありがたいな。よろしく頼む」


他の兵士が現場の処理をするなかあたしはどうやら責任者らしい警備兵と共に街の中に入ったわ。チェックは先程の様子をかんがみて怪しくないと手短に済ませてくれたし。


「そちらの鳥形の魔物はテイムしたのですか?なかなかの連携でしたね」

「ピ」

「ははは、拾ったばかりなんだがいい相棒になりそうで良かったよ」

「拾ったばかり、ですか…よほど相性が良いのですね」


雑談をしながら街を歩きほぼ中央に位置するギルドまでやってきたわ。

街の中心には緊急時の避難などに使われる広場があり、広場を取り巻くように各種ギルドも建てられているのよ。普段は露天も多く賑やかな場所だけど今は魔物の襲撃もあり避難した人たちがベンチなどに座り静かに休んでいるようね。


「こちらの方ともうひとりの方のおかげで魔物は倒された。もう安心していい」

「おお…!」

あたしと兵士に気づいて少しざわついたけど、兵士の説明で落ち着いたわね。慌てて転けた人が擦り傷を作った程度であの馬車の男性以外にはけが人もなく済んだみたいね。恐怖はあったでしょうけど…最悪の事態を回避できて本当に良かったわ。

こういうときはあたしみたいなちっぽけな人間でも少しは役に立てて良かったと思えるわ。

「ありがとうございました…!」

街の人の感謝の声に手をふることで返して冒険者ギルドの中に入ったの。

背中においちゃんありがとーって子供の声もかかって、そう、あたしはおっさん冒険者よ。モブとしてカップルを見守るために旅をしようと思ってたのに、何やってんのかしら!?ってちょっと途方に暮れたの…。

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