第四羽 おっさん、洗う。

一応剣だけは腰の剣帯で身に着けておいて浅瀬からざぶざぶ入って頭まで沈めて全身を洗う。真っ裸に剣だけって間抜けだが仕方ない。こんなとこで本当に無防備になるなんて危険だかんね。下のものがブラブラでもいざとなったら戦えねーと。


石鹸なんて高価なものはさすがに持ってないから本当にただの行水なんだけど。ゴブリンの体液はなんとか落とせてホッとしたわ。それから無事だった下着を身につけ、シャツや革鎧をごしごしもみ洗いする。びしゃびしゃになったけどまあ臭いはとれたかしらね。きゅっとしぼって香を焚いてる辺りに比較的きれいな枝を刺して簡易の物干しを作り広げて乾かす。まあ、できて生乾きってところだけどゴブリンの体液まみれよりはましよね。


「ふう」


きれいになると自然に深い息ができる。無意識に息止めてたわね。臭くて。もはや命の洗濯レベルで清々しいわ。

ついでに荷袋からカップを取り出し川のきれいな水を掬って火にかける。一応煮沸しないと。んーこういうときに浄化って使えたらいいんだけど、魔法の才能なかったのよねー。


この世界剣と魔法の憧れのファンタジーなんだけど、十歳くらいから教会に行って洗礼を受けるの。そのときに魔法の才能が開花したり適職が分かったりするのよ。才能って言っても大体の魔力量ね。でもあたし何もなくってね。そりゃあがっかりしたわ。体術はちょっとできたし体も周りの子よりは丈夫で健康だったから、冒険者なんてケチな商売始めちゃったんだけど。


その頃は冒険者なんて夢でも憧れでもなかったなあ。だって世の中危ない橋わたって一攫千金より地道に働いて安定した生活送る方がよっぽど豊かよ。なんでかって?街道外れてちょっと歩けば魔物に当たる世界よ?冒険者って魔物討伐がメインになる活動だものわざわざ死ににいくようなもんでしょ。


うちは農家の三男でさ、家は長男が継ぐし次男は婿入りして家を出たけど近所の農家で、俺は農家に向いてるっても出なかったしどうしようって。適職も得意分野もなかったのよ。スキルも平均ちょっと体術いいくらいで、魔力は低い方だし特に秀でたものがなくって逆にわからんみたいな。農家の手伝いだってできないことはないけど人手も足りてたからねえ。


なんでとりあえず家を出て街を出て一人で身を立てようってんで手っ取り早いのが十歳過ぎたら加入できる冒険者ギルドってわけ。

まあここでも平均ちょっと体術いいくらいの良くも悪くも真ん中あたりの平凡な冒険者やってんだけども。年季だけはいってて中堅冒険者にはなれたわ。おかげでちょっとしたレイド戦みたいのに参加して生き残り少年を託されたりなんかしちゃってんだけど。

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