第三羽 おっさん、気づく。

さて、方針は決まり街道を南西へたどり始めたが気づいちゃうとしんどい臭さ。そう、ゴブリンの体液の臭いだ。パーティメンバーが大暴れして殲滅していたけれど如何せん相手は繁殖力の強い魔物だ。あまりの数の多さに久々にあたしも腕を振るったわけ。まあゴブリン程度に危なげもなく戦えたはいいんだけど、斬ったときの吹き出す体液の避け方が鈍っちゃってたのよねえ。見事にひっかぶっちゃって、青い血液まみれに。しかもあれよ、周りのメンバーはかすり傷一つ血の一滴も被ってないってゆーね…。

普段なら宿につくまでは我慢ってかあまり気にしてなかったわ。これは前世を思い出した意外な弊害ね。きれい好き日本人の性よね。お風呂に入りたくてたまらないわ。でも待って、一般的な宿ってたらいにお湯をもらうくらいなのよね。今まではそれが普通で疑問にも思わなかったのに、思い出したら嫌になっちゃったわ。


「どうしようかしら」


腰にクるようなテノールよりちょっと低めの渋い声で呟いてはたと口元を押さえた。今他に誰もいないわよね…そっと辺りを見回してため息を吐く。いやもうつい前世の口調で独り言いっちゃったけど、あたしは現世おっさんなのよ。前の口調っていったら女言葉。おネエになっちゃうじゃない!さすがにおネエになるつもりはないわ!前世を思い出したからには、ってかあたしのマグナムがいきりたつの見たことねーわ。女に反応したことないしかといって男にウホッてなったこともない。今さら夜のお姉さまに男にしてもらうのも無理だから華麗なるお独りさま生活確定ね。

とにかく、しゃべるときは今まで通り男口調に切り替えなくちゃ。頭の中はほぼ前世の自分だけども。人前で取り繕うくらいしとかないと社会的に終わりを迎えてしまいそうだから…ね。


たんたんと考え事をしつつも街道をたどっていくうちに隣町につく前に川があるんだって思い出したわ。ここら辺は慣れた地域なんだけど前世の記憶が甦ったことで少し混乱してるのかも。

街道からはちょっと逸れるんだけど浅いきれいな水の流れがあるのよ。ちょっと森に入るんだけどほどほどに目隠しされるし水浴びするには丁度いいくらいよね。

街道から森の中にわけいって少し歩けば木漏れ日の中にサラサラと流れる川に当たる。体に巻き付けていた荷物の袋を下ろして気配をさりげなく探るがこの近くに魔物はいないようだ。念のために魔物避けの香を焚いてそのそばで装備をはずす。簡易な革の胸当てと籠手、脚絆を荷袋の上に置く。シャツとパンツそれから思いきって下着まで脱いですっぽんぽんになった。もうね、限界。

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