step5 反射

「『反射リフレクト』だよね?」

 

「そんなのいつコピーしたのよ」


 依然として驚嘆の面持ちを俺に向ける颯と囚われていた少女。


「お姉さん違うよ『反射リフレクト』はお兄さんの異能スキル。お兄さんは『能力模倣スキルコピー』と『反射リフレクト』の2つのスキルを現実に引き継いだデュアルスキル。初めて見たよ」



能力模倣スキルコピー

 この異能スキルは目で見たスキルをコピー出来るがそのコピーは上書き保存されてしまう。


 つまり俺が別のスキルをコピーすればさっき発動した『音速』はもう一度、颯の『音速』の発動を見ない限り使う事ができない。一長一短があって万能の力では無い。



 そして『反射リフレクト』……。

 人はいつ死ぬかわからない。突然の悪意、突発的な事故、それらを防ぐための自己防衛として選んだスキルに過ぎない。


 しかし銃弾を反射できるとは思わなかった。

 

 少し賭けではあったが『音速』を発動し一斉射撃を全て兵士に撃ち返したのだ。


 すると少女の『デュアルスキル』発言に疑問を持った颯は問いかけた。

 


「どうしてあなたにそれがわかるのよ」


 颯は不満げに首を傾げる。

 

「これが私のスキル『能力察知スキルアンサー』だもん。目で見た人のスキルが分かるの……お姉さんは『音速』すごい2人ともレアスキル」


「ちょっと何よデュアルスキルって。君は異世界で何をしたの?」


「……わからん」


 おれはただ現実世界に帰りたかっただけ。


 突然、突拍子も無しにクリア宣言された。

 俺にだって訳がわからんさ。


「魔王を倒したとしても持ち帰れるスキルって1つだけ。もっと凄い事をしたとしか考えられない。……でも今はいいわ。この子もいることだし一旦アジトに戻りましょ」




 ◇◆




 アジトに到着すると俺の話題で持ちきりだった。デュアルスキルの事もそうだが、なによりは俺の異世界のクリア条件について。


「確かに異世界で魔王を倒すのは不可能に近い、だからこそ現実世界へと持ち帰れるスキルをという報酬がなによりも大きかった」


 広間の椅子に腰をかけ俺を見つめる白峰、その横には颯と月花もいる。


「それより俺、住むところないんだけど。それに飯を食う金もない。今日の仕事分の報酬って前借りとか出来ないのか? このままだと生きていけないんだが」



「それなら心配いらないわ。みんなここに住んでるし、食事はマスターが作ってくれる。今回の報酬も既にあなたの口座に振り込んであると思うわ」


 銀髪を触りながら颯が答えた。


 どうやら普通の住居を借りて生活すると政府や政府の手先に居場所を特定されて少女のように連れて行かれてしまうのかもしれない。


 本当に『生還者』は不便で生きにくい。

 あのまま異世界で暮らしいた方が良かったとさえ思えてくる。


「そうそう。その子、名前は?」


「私は紗奈さな。2人には話したけどスキルは『能力察知』私も仲間とS級をクリアしたんだけどその仲間とはぐれちゃったの……」

 

 それから紗奈の話を聞くに、紗奈の仲間も俺たちと同じような『生還者』のチームで政府から逃げ続けていたらしい。


 しかしある時、仲間の1人がチームを裏切った事で居場所が政府に特定されみんなバラバラに。そうして1人になった紗奈は捕まった。


 その情報が月花の包囲網にかかり俺たちは輸送車を襲う作戦に取り掛かった。



「紗奈ちゃん、君をに仲間のもとへ届けるために政府軍のスキルと仲間のスキルを教えてくれないかい?」


 落ち着いた静かな表情で語りかける白峰。


 この世界に戻ってまだ1日と経っていないのだが、そんな俺にでもわかるこの質問の意図。


 白峰は紗奈ちゃんに政府の情報だけでなく仲間の情報までも売ってくれと言っている。


 見た目は温厚な好青年のくせに口から出てくる言葉はまるで悪魔だ。


「助けられた恩もあるからね……」


 それから紗奈ちゃんは俺たちに敵のスキルと味方のスキル、知っている限りを話した。それから紗奈ちゃんをこのアジトでかくまうことになりその場は解散した。


 みんなが広間から出ていくが俺はその場に残り続けた。そして目の前には白峰がいる。


「なんで紗奈ちゃんに味方のスキルまで言わせたんだ? 紗奈ちゃんの味方って事は俺たちの敵じゃないだろ?」


「そうだね。でもね結城くん……悪魔にでもならない限りこの世界で大切な人は守り切れないんだよ」


 俺は白峰の言葉とその表情や仕草、目線から何も言い返す事が出来なかった。

 それだけの白峰の強い想いを感じた。


 仲間を守るため……か。


 それからおれは支給された指定の部屋へと到着した。


 颯曰く、みんなこの喫茶店の地下アジトで暮らしている。電気も水道も通っているし飯もついてくる。


 何不自由のない生活だが、思うことがある。


 みんなは何を目的にここで暮らしているのだろう。そんな疑問が俺の頭にふわふわと浮かんでいた。


「ここが俺の部屋か」


 ドアを開けると6畳程の個室、しばらくを凌ぐには申し分ない。簡易的だがベッドも備え付けてある。


 ふと爆破されたアパートを思い出す。


 今日は散々だった。さっそくだけど俺は部屋に着くなりポケットから支給されたスマホを取り出して口座の残高を確認した。


 ーーーーーーーーーー

 ○○銀行 ○○支店

 結城李織

 残高 5,000

 ーーーーーーーーーー



 は?



「高校生のお小遣いかよ」


 そんな独り言が何もない簡素な狭い部屋で木霊し、少しだけ虚しい気持ちになった。そしてその気持ちを紛らわそうとベッドの中に潜り込むように眠りについた。

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