step6 初仕事の報酬
翌朝
俺は寝ぼけ眼を擦りながら広間で配給された朝食のホットドッグを食べていた。
「うまっ!」
現実世界の飯の美味さについつい独り言を漏らしながら空腹を満たしていると広間のドアが開き、颯が入って来た。
シャワーでも浴びていたのだろうか。
颯が部屋に入ってきた途端に爽やかな香りが部屋中に広がっていく。
「あ、……昨日の報酬の明細ってない?」
颯はセミロングの銀髪をさらりと靡かせてから答えた。
「あるわけないじゃん」
……でしょうね。そんな気はしていた。
「死ぬかと思った初仕事の報酬が5000円だったんだけど桁間違えてないかなって……」
俺は苦笑いしつつ冗談混じりに言った。
「報酬が貰えるだけいいじゃない。私は何も貰えないのよ?」
ブラック企業だ。
口を開けたまま呆けていると颯が朝食とコーヒーを持って俺の正面の席に座った。
「このチームを作った当初のメンバーは私と宝太なの……そんな私たちが報酬を貰ってたら、あなたたちに還元するお金が無いじゃない」
今までの颯の言葉から十分に分かる。
俺たち異世界から生還した『生還者』はこの世界では普通に暮らせない。
正確に言えばスキルを持っている時点で政府の監視対象もしくは捕獲対象になるのだ。
それに『生還者』でも同じスキルを持つ者は二人として存在しないと聞いた。
スキル自体は俺の知る限りでも百種類以上存在する。いったい今この地球上で何不自由なく生活している『生還者』は果たしてどれだけ居るのだろうか……。
『生還者』は俺たちのように政府から逃げ回り耐え忍んでいるのではないだろうか。
「颯、ひとつ聞いていいか?」
「ええ、私の知ってることなら」
颯はコーヒーを片手に俺に視線を送った。
「このチームの目的ってなに?」
「……私たちの目的は『生還者』と『一般人』が共存できる世界の実現、ここにいるみんなはそう思ってる」
コーヒーを啜りながら颯は答えた。
それがどこか特別な事ではなくいつも通りで当たり前の事かのように。
現実に戻りただ普通の生活を送りたかった俺からすれば、そんなカッコいい言葉を当たり前のように言える颯が一段と眩しく見える。
「カッコいいな颯は……」
このままこの仕事から足を洗って他の仕事に就いたとしても、そこで待っているのは政府軍から追われる生活。
それにスキルには『
見つかるのも捕まるのも時間の問題。
俺たち『生還者』に残された選択肢は
分かりきっていた事だったんだ。
すると颯は啜ったコーヒーを机の上にあえて音が鳴るよう強めに置いて俺を睨んだ。
「なによさっきから『カッコいいな颯は』とか言ってジロジロ見て。女の子は可愛いって言われた方が嬉しいのよ! まさか本当に童貞?」
「えっと……じゃあ可愛いよ、颯」
「その言われ方はまったく嬉しくない! 言わされた感出すから雰囲気が台無しじゃん……。ふふっ……あっはははは……あーおもろ」
颯は両手を叩いて笑っていた。
そもそもあの場面で可愛いって言っても雰囲気が台無しだと思うのだが。
「笑い過ぎだろ」
「ごめんっ……君って、天然?」
「いや……俺は国産だけど」
「へぇー国産なんだぁー。……ふふっ」
なんだか様子がおかしい。
颯がまともに俺の話を聞いてくれない。
「話を戻すけどさ、俺もそれが実現するまで報酬はいらないよ」
俺の解答に少し呆れた表情を浮かべた颯。
「まずは報酬でその汚い汗だらけの服を買い替えなさいよ……。それに貰えるものは貰っておくのも大事よ?」
颯はカップのコーヒーを啜ってからゆっくりと手元に置いた。俺を否定する言葉をかけるが表情は満更でもなさそうな気もする。
「そんなに汚いか?」
「広間に入った時からずっと汗臭かったわ。広間を出て左側にシャワーと洗濯室がある。それとシャワーが終わったら買い物にでも行く?」
「……いくいく」
これは颯からデートのお誘いって事か?
いや、そもそもそんな雰囲気ではないのだろう。しかしこのチャンスを逃すともう2度とチャンスが訪れない気もする。というより二人で行動した方が買い物も安全なのでは……。
なんて多種多様な理由を並べては自分を正当化していた。
これだから童貞は困る。
すぐに舞い上がってしまう。
「じゃあ1時間後、ここに集合ね」
「おう!」
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