step4 もう一つのスキル


 颯の姿が見当たらない……。

 

 既に輸送車の中……?


 それより颯のやつ、あれだけ激しく動いた後なのに体力は大丈夫だったのか?

 初めて俺と会った時は人形3体の相手で膝を着くレベルで息を切らしていたはずだ。

 

 だが今回はその倍の数、大丈夫な訳がない。


 俺はすぐさま輸送車の中へと侵入するため動き始めた。白峰からの無線が聞こえた気がしたが俺の思考はそれどころでは無かった。


 息を切らしながら車内へ侵入すると低くて太い声が聞こえてくる。


「『音速ソニック』の弱点、それは捕らえてしまえばその能力は活かせねーんだよ」


 声の方に視線を動かすと迷彩柄の服を着た強面の男が既に颯の両手足を縄で縛っていた。


「来たらダメっ!!」


「おっと黙りな小娘」


 男は近くにある縄を自由自在に操り颯の顔に巻き付けるように口を封じた。


「俺のスキルは『捕縛』あらゆる捕縛道具を自由自在に操れる」


 しかしこの状況は非常にまずい。


 颯を人質にして俺を車内に誘い込む作戦だったのか、いつの間にか5人の伏兵に銃を向けられ囲まれてしまっている。


 窓などは一切付いておらず、頑丈そうな壁の奥には堅牢な作りの檻が施設された車内。


 おそらくあの中に『生還者』がいるが。


 ……控えめに言っても大ピンチだ。


 白峰の無線が聞こえてくるが返事をしている場合じゃ無い。


 この人数と状況じゃ『音速』を発動しても颯を助けられない。颯を救うためには迷彩服の大男を倒してかつ銃を構えた兵士を倒すしか無い。


 今までいろんな事から逃げて来た俺にこの期に及んで逃げるという選択肢はないのだ。


「その子を解放してくれ……頼む」


 俺は無抵抗を示すため両手を上げながら軍服の大男と目を合わせた。


「自分の命乞いじゃなくてこの小娘を助けたいか、俺はそんなキザな野郎が大嫌いなんだ、まずはてめぇが消えな! 撃てぇ!!」


 大男は兵士たちに向かってロープを握る反対の腕を振り降ろすと同時に狭い車内で銃声が鳴り響いた。


「な、ど、どうしてお前が……ぐふぉっ」



 迷彩服の大男が倒れた事で縛られていた颯は自ら縄を解いた。そして一人でに立ち上り呆然と俺を見つめている。


 すでに周囲を囲んでいた兵士たちは皆倒れており車内で立っているのは俺と颯だけ。


「何が……起きたの?」


 颯の質問に答えようとおもったのだけど優先事項はそれじゃない。


 俺たちは輸送車の後方で頑丈に捕獲されているであろう『生還者』を助けるため、軍服の大男の腰付近からカードキーを抜き取った。


 錠の鍵は一番強そうな奴が持っていると相場が決まっている。そしてカードキーを使い黒いカーテンで隠された個室のドアを開けた。


「もう大丈夫だ」


 個室の中にはまだ15歳くらいの少女が目隠しと手錠がつけられ椅子に拘束されていた。


 颯がゆっくりと目隠しを外し手錠をカードキーで解錠すると、不安そうな表情の少女が口を開いた。


「……だれ?」


 周囲をキョロキョロと見回す少女に颯が優しく語りかける。 


「お姉さんたちはあなたを助けに来たのよ」


「ありがとう、怖かったよ」 


 颯は少女をぎゅっと抱きしめ「もう大丈夫だよ…」と伝えている。その言葉に安堵するように少女も颯を強く抱きしめていた。


 俺が想像していたより、遥かにこの世界は平和では無かった。


 何も知らないような純粋無垢の少女が政府に連れ去られ監禁され挙句には人体実験にされようとしていたなんて……。 


『二人とも無事か……?』


「ええ、大丈夫よ。『生還者』の保護も完了したしこれから戻るわね」


 颯は無線の電源を切った。


 そして俺の元へと近づき、頬に手を当てるように俺の耳元の無線のスイッチを切った。


「なっ何するんだよ……」


 キスされるかと思ったじゃねぇか。

 とは言えないが心臓の鼓動が早まる。


 心は単純で正直だ……。


 

「ねぇ、ここで何が起こったのか説明して」


 俺が颯の問いに答えようとした瞬間、輸送されていた少女が代わりに答えてくれた。



「お兄さんのスキル『反射リフレクト』だよね?」

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