step3 奪取してダッシュ


 俺は移動中のワゴン車の後部座席で時を窺っていた。異世界でも特に異性と関わりのなかった俺からすればセクシードライバー望月千癒。


 このワードの衝撃はトレンド1位だ。

 もの凄く映える。


 そんな詰まらない話は置いといて、俺たちは今どこだかわからないが見通しのいい山道をひたすら真っ直ぐ走っている。


 ちなみに今の速度は150km。見つかったら捕まるしオービスが光っても捕まる。


 だがそんな事はどうでもよくて、問題はこの状況である。


「あぁー。……微妙」


 颯が手札を睨みつけながら呟いた。


 なぜだか知らんが月花、颯、白峰と俺の4人は今ワゴン車の荷台でポーカーをしている。


 ワゴン車は10人乗りらしく、それでもスペースが余っているくらいだ。

 

 いいのかこれで……。


 これから世間一般にいうというのに緊張感が無さすぎる。


 早速、就くべき職を間違えた気がする。



「降りるわ」


 周囲の顔色を伺うように颯が呟いた。


 どうやら颯のやつも輸送車を襲うことに少しは抵抗があったみたいだ。こんな近くに同じ気持ちの仲間が事に少しばかりか安堵した。


「俺も降りるよ!」


 踏み出す勇気をもらえた俺は手札を伏せて車から降りる準備を始めた。


 すると白峰は口角を上げて不敵な笑みを浮かべる。


「さぁ勝負だ月花……」


 白峰は訳のわからない言葉を口にしてから手札を場に出した。


「ツーペア!」

「ワンペア」



 ……は?


 てか月花弱すぎんだろ。


「結城くんもさすがだね、目的の場所をしっかりと頭に入れていたのかい?」


「ま、まぁな」


 降りる準備が裏目に出た。

 やる気があるやつだと思われたに違いない。


「今回の作戦は機動力のある二人とサポート系の僕と月花の二人に別れて行う。僕は作戦を指揮し月花はトラックから輸送車のハッキング、颯と結城くんは輸送車から『生還者』を奪取してくれ」


「OKリーダー」


 やる気を見せる颯の服装はなんとも動きやすそうなショートパンツとノースリーブで肌が露出している。俺には少し刺激が強めだ。

 

「おそらく護衛は武装して銃も持っている。くれぐれも気を抜かないように」


 なんだと?


 武装した兵士が輸送車に乗っているということは間違いなく撃たれるじゃないか。それより日本という国はこんなにも治安の悪い国になったのか? まるでハリウッド映画だ。


 しかし、それもそうか。


 おそらくこういう状況も日常茶飯事なのかもしれない。もちろん訓練された兵士たちは俺たちのような輩が襲ってくる事を想定している。


「君、まだ『音速ソニック』使えるでしょ?」


 俺は他のことを考えていたため適当に返事をすると「なら速攻で済ませましょ」と仕事が早いキャリアウーマン風な返答が帰ってきた。


 にっこりと笑顔を見せる颯はストレッチをしていてそんな彼女の背中からはやる気しか感じられなかった。


 長いこと異世界に居たせいか随分と世間は変わってしまっている。


 これが今どきのブラック企業か……。


「みんな見えたよ〜」


 前方から千癒の声が聞こえてきた。目をやるとフロントガラス越しに黒色の大型バスのような見た目の輸送車が見える。


 そして黒塗りのセダンが前後に1台ずつビタリと大型の輸送車をマークしている。


 ……付け入るスキなくね?


 俺は白峰から双方向無線を渡され何も言わず耳に装着した。何故装着したかというと完璧に作戦の引き際を見失ったからだ。


 これも給料のため生活のためだ。

 やるしか無い。

 別に殺人をするわけでも無い。

 攫われた人を助けるんだ。


 と、ひたすら前向きに考える事にした。


「ハッキング完了……前の車はブレーキ効かない、後ろの車はアクセル効かない。リーダーの合図で輸送車止めれる」


 どうやら月花は長々と話すとカタコト言葉になる。まるで彼女自身がプログラミング言語をそのまま話しているみたいだ。


 さすがは『電脳攻撃ハッキング』使用するところは初めて見る。


 150kmで走行し警察に見つからないのもオービスが光らないのも全ては月花のスキルのおかげなのかもしれない。


 ……この一件が終われば月花にフリーランス契約を結んでもらおう。


 そんなよこしまな気持ちで月花を凝視していると状況が動き出した。


 前のセダンは減速せず、後ろのセダンはスピードが伸びずに俺たちが乗るワゴン車に抜き去られてしまった。


「よし月花…………今だ!」


 白峰の言葉に反応するように『Enterキー』をコツっと小指で押した月花。


 輸送車はグングンと速度が落ちていき、やがて止まった。

 そして止めただけでなく側面に付いている頑丈そうな扉もプシュっと音を立てて開いた。


 そして俺たちのワゴン車は予め用意されていたかのような物影に隠れるように停止した。


 全ては計画通りだと言わんばかりの白峰の顔……。


「行くよっ」


 颯が俺の腕を掴みグイっと引っ張った。


 本当は拒みたかった、しかしアドレナリンが放出されたのだろう。


 やれる気がしてきた。

 俺の脳は実に単純な構造である。


 ワゴン車から飛び出ると案の定、輸送車からは数人の兵士が銃を構えながら出てきており、周囲を警戒している。だが俺たちはまだ気付かれていないようだ。


 俺は颯のスキル『音速ソニック』を使用して出てくる兵士の背後を盗り、片っ端から峰打ちしていった。


 気が付くと颯も同じように兵士を倒していき二人で10人程の武装した兵士をあっという間に気絶させた。


 異世界での5年の生活のおかげか自身の戦闘能力も格段に上がっている。普通の人間であれば、急所を狙うのは容易だ。


「6人よ……私の勝ち」



 ……子供かよ。


『二人とも、おそらくまだ中に伏兵がいる。それと輸送車にはスキル持ちのリーダークラスが必ずいるはずだから気をつけろ』


「「了解!」」


 敵にも『生還者』がいるのか……。


「リーダー、中の様子はわからないのか?」


『ハッキングが気付かれた瞬間、輸送車内のあらゆるカメラが壊された……恐らく一筋縄ではいかない奴がいる……気をつけろ……』


 白峰の無線を途中まで聞いていたがある異変に気づいた。




 颯の姿が見当たらない……。

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