X-4 この世界の始まりと終わりについて
初めにあった世界は何処までも漆黒だった。
そんな世界に一つの存在が生まれていた。
それには手足と首があって人間の様であった。
その存在に名前はなく呼ぶとしたら緑の目の者であるので緑目の者と呼ぶべきだろう。
緑目の者は果てなき闇と見えぬ足場にて自分の存在を認知すると何処かへと歩き始めた。
しばらく歩いては止まり、時には眠ったりとそうした行いをただ繰り返していた。
その世界の見せる虚無に緑目の者はいつしか泣いてばかり。
足元には彼の涙で海が出来上がったが何も見えない彼にそんな事がわかるわけがなかった。
ある時だった。空から光が差し込んだのは。その時に存在が見たのは何処までも広がる青い水の世界と大らかな陸地と白い雲の漂う空。
驚いて固まる緑目の者はその世界を駆け出した。とても力強く駆け出した。
そうして駆け出している内に二十四の存在を見つけた。
彼らは緑目の者と同じように四肢を持ち、さらにはそれぞれ赤や黒などの瞳の色を持っていた。二十四の存在は日々歌ったり手を繋いで輪になって踊ったり、木々から零れ落ちる果実を食べながら楽しく話をして過ごしていた。
緑目の者はただ遠くから見ているだけだった。
なぜならどう接していいかわからなかったから。
「……世界の始まりねえ」
破滅世界にて。住んでいる街を離れ、何処かの廃墟ビルで昏仕儀タカカミはノートを手にその題目を読んでいた。タイトルに『世界の始まり』というそのお話を。
「ビッグバンとか水をかき混ぜて生まれたとか誰かが地球上に種子を放ったとかそういうのとかじゃないのか?普通――」
首を傾けながらも彼はそのお話の続きを読み始めた。
緑目の者は彼らが森に入ると続いて森に入っていき、彼らが果実の収穫をしているとその場所から離れて別の場所で収穫をしていた。たくさんの果実をその両手に抱えきれないほどに集めると彩り豊かな両手の内の世界にその目を輝かせてはそれら一つ一つを口に運んで笑っていた。すると遠くから笑い声が響いて来た。何だろうと思って近くまで向かうと彼は二十四の集団が集めた果実の山を見た。集団の中心で塔のように積み上げられたそれを見て緑目の者はなんだか悲しくなった。やがて彼らがいつものように手を繋ぎあって輪を作って、皆で歌いだした。その場を静かに去ろうとした。
その時だった。
「だれかいるぞ!」
その声に緑目の者はぎょっとして大急ぎで走り出した。待ってという声にわき目も降らずに彼は全力で森を走り抜けていく。二十四の集団は各々の目を輝かせていた。緑目の者は怯えて走っていた。
「前に一回読んだけど……これどこまで続くんだっけ?まあいいけどさ」
何が言いたいのかわからない文の並びにタカカミは頭を抱えた。ページをめくろうとしたその時、地響きが彼の足元で走りだす。
「あ、これやば――」
廃墟ビルは大きな音を立てて真横に倒れる。交差点に向かって倒れたそのビルにおよって辺りを砂塵が覆う。その中から一つの物体が空高く飛び上がるとそれは近くの交差点に降り立つ。
「思ったよりボロボロだったな」
タカカミだった。彼は傷一つなくその場から姿を現す。
「ああ、悪いね。ちょっと気分転換したくてさ。それで街から出たんだ。いやあひどいもんだねこの辺り。爆撃でも受けた?」
彼は交差点の近くであお向けに転がっている白骨遺体に苦笑いで話しかけていた。骨だけのそれは口を大きく開けて右手を上に伸ばそうとしているように見えた。
「なにこれ。死後硬直?」
遺体の手に触れようとするとそれはポトリと落ちた。
「ああ悪い悪い。壊す気はなかったんだ。ごめんよ」
申し訳なさそうにして彼はその場を去る。
「あーうん。ここじゃ砂塵というかぼろいからやっぱダメか」
携帯型のテープレコーダーをポケットから取り出してため息を吐く。
「仕方ない。戻ろうか。街に」
彼は向きを変えるとビルから飛び上がった時よりもさらに勢いよく飛び上がってそのまま一定の速度で流星のように街へと飛んでいった。
――なんで『こっちの方』に行こうってなったんだっけか?
モチベーション不足。気分転換。状況確認。様々な言葉が彼の脳裏を駆け巡る。
「まあいいや。砂塵のせいでテープがダメになる可能性考慮してなかったし、やっぱり街でやるべきだな」
結論付けたタカカミの視界に街が映りこむ。街は外から見ると何かに覆われており、ドーム状のそれは白い反射を太陽光によって時折見せる。ドームの内にある街は廃墟などなく、むしろ廃墟で覆われた大地の中でポツリとその街は存在しているのだ。
「永遠の安寧にして楽園の地へ俺は帰って来たぞ……と」
ドームの内に入ると彼はそのまま着地して深呼吸する。
「うーん埃一つ感じないのはいいことだ」
テープレコーダーを手に彼は録音を始めた。片や廃墟の群れ。片や並ぶ住宅地にスーパーなどの施設。共通しているのはどちらにもタカカミ以外の人はいないという事である。
「次が儀式において十二番目の戦いになりました。最後の戦いです。とはいっても……とても弱い相手だと思いました。下手したら今まで戦った相手の中で一番弱いかったかもしれません」
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