11-4
――どうしてこんな事しているんだか
眼鏡屋で爆発が起きる数刻前。一人の男が一階の西エリアから出て東エリアの方へ歩いていた。男は黒のつば付き帽子に緑のジャケットとジーンズを着ていた。
(敵を探して殺せって言うのはどうなんだ……まあ別にいいけど)
手に持ったスマートフォンの画面を眺めながら男はため息を吐く。
「おい」
「ん?」
帽子の男に誰かが近づいて来る。スーツを着た男だった。
「お前、そのスマートフォン見せてもらってもいいか?」
「ああ、いいぜ」
――見慣れない顔の奴がいたらスマートフォンを持ってる確認してくれ。そして今使ってるこのSNSのグループに入っているかを確認してくれ。それが出来ないのならそいつを殺しても構わん
先刻、千絵谷がSNSのグループチャットに出した新たな命令。誰一人それを疑うことなく受け入れ、現在各所で千絵谷の部下たちは確認しあっている。
帽子の男は画面を見せる。スーツの男はそれを見て首を縦に振った。
「確認した。怪しい奴いたら教えてくれよ」
「ああ。あんたのも見せてくれよ」
『おう』と言ってスーツの男は自分のスマートフォンを操作するとSNSのグループ画面を同じように見せた。
「うん……これで大丈夫だ。にしても敵はどこにいるんだか」
「さあな。こうも広いと骨が折れそうだ。折るのは相手の骨だがな」
スーツの男のジョークのような言い回しに『なんだそりゃ』と言って帽子の男は笑う。帽子の男はしばらく考えるとスーツの男に問いかける。
「なあ。敵はどうやって俺達を殺しに来ると思う?」
「さあな。銃は奪ったって聞いたし、後はグループチャットの報告にあった蔦かね」
「蔦ねぇ。突然上から降ってきて縛り首とかか?笑えねぇな。隠れながらそれされたら手の出しようがねぇよ」
ため息をはいて帽子の男は肩を落とす。
「隠れてばかりってこともないんじゃないか?千絵谷さんがさっきグループチャットに流してたんだが――」
スーツの男は画面を動かして帽子の男にそれを見せる。
――敵の能力とでもいうべきものだが回数制限がある。うまくいけば使えなくなったところでリンチで殺せるはずだ。死なないように行動してくれ
「ああこれ。回数制限って……何回だ?」
「さあ?俺らで特攻しかけていけってことじゃね?」
「ああなるほど。俺らに死ねってか?」
「でも千絵谷さんの指示にはなんか逆らえないよな。リーダーだからってものあるかもしれないけどな」
スーツの男はスマートフォンをしまうと帽子の男にこう言った。
「まあここに集まったのが確か八十いくらだっけ?さっきの戦いでちょっと減ったけど。それだけいれば囲って殴れば勝てるでしょ」
「確かにな」
スーツの男と歩きながら帽子の男は通りかかった眼鏡屋の奥に視線を移す。
「ん?」
帽子の男は何かに気づく。
「どうした?」
「いや……今何かいたような」
「なに?」
スーツの男が帽子の男と共に同じ位置を見る。かすかに光のようなものがカウンターの奥から見えた。
「今のってもしかして……」
帽子の男はスーツの男に視線を移して小声で話しかける。
「多分敵が。慎重に近づけば不意は取れるかもしれん」
「よしわかった――」
「ああ待て。一人で行くな」
スーツの男は店に入ろうとする帽子の男を止め、近くの仲間たちに呼びかけると店内の入口をふさぐように列を造る。帽子の男は列の真ん中にいた。
「よし」
帽子の男は両隣の仲間に合図を送る。それぞれこくりと頷くと慎重に店内へと足を運んだ。
「これ何もなかったら俺が悪い?」
帽子の男は両隣の仲間に問う。
「まあ何もなかったらどんまいってことで」
「そうそう。相手は隠れたり銃持ってたりで結構強いからな。慎重にいこうや」
「ああどうも」
仲間の励みに顔が緩む。
店内からカウンターまでの距離はそんなにない。だけど奥には人殺しが潜んでいるかもしれない。そう考えて心臓の鼓動が聞こえ始めた。
(さて……)
荒れだした息と共に帽子の男はカウンターの下に一番に入りこむ。すると――
「あれ?誰もいない?」
「逃げられたんじゃないのか?」
スーツの男は店の外で見張っていた。
「ああそういう……悪い皆」
「気にすんなって」
帽子の男が申し訳なさそうに一番に店から出る。
「さっきの光、何だったんだ?」
「さあな。多分――」
店内から光が照らされ、仲間の言葉も体もかき消すように光輝いたのを帽子の男は見ていた。爆発はすぐに起こった。
「うわぁっ!!」
帽子の男は幸運だった。
店内で起きた爆発に味方が巻き込まれ、吹き飛ばされる。帽子の男は運よくその場にいたものの、傷を負う事はなかった。
「大丈夫か!?」
スーツの男は二つ隣の服屋にいたので傷はなかった。彼は駆け付ける。
「み、皆が――」
眼鏡屋の方を見る。店内は内から吹き飛ばされ、仲間だったものが転がっていた。
「う……」
帽子の男は口を覆う。それがあまりにも衝撃的でそのまま一目散に走って逃げた。
「あ、おい――」
スーツの男は彼を止めようとしたが止める理由はなくそのまま見送った。
(まあ無理もないよな――)
スーツの男は吹き飛ばされた店内を見ようとしてやめた。あまりにも衝撃的な光景をその目に移せなかったから。
「どうすんだよこれ」
嘆く彼の元でスマートフォンが鳴る。手に取って千絵谷からのメッセージを確認すると状況をメッセージとして送った。
「爆発だし手りゅう弾の類って書けばいいのか?それとも能力?」
スーツの男は彼を見送ると同じ方向に歩きだす。二人の向かう先は東エリアに向いていた。
「やべえよ……爆発なんて聞いてねえよ」
千絵谷は震えていた。相手が持っている能力がまさか爆発ができるなんて予想だにしていなかったのだ。
「嫉妬がどうこうって言って……それでなんで爆発!?蔦じゃないのか?!」
未だに見つからない相手。増え続ける犠牲者。いら立ちと恐怖が混じって彼をかき乱す。
(俺のいる場所の周囲には見張りがいる。それも格闘経験とかとかくケンカの強い奴らだ。防御は万全。それに近づいて来る味方にはスマホ見せたりして追っ払うようにはしてるが……どうすりゃいいんだ?このままじゃ連れてきた仲間全員殺されちまう)
恐怖で体が震えだす。千絵谷は他に策はないかと必死に頭を働かせる。
しかし十分経っても打開策もなく、彼が何かできるわけじゃなかった。
「グループの人数には変化なし。誰かがここに入って来てるわけじゃない。どうなってる……」
作戦が筒抜け。そう考えた。スマートフォンを誰かが奪われてそのまま成りすまされている。最初の死体以外で誰かから奪ってそのまま敵は潜んでいる。千絵谷はそう結論付けた。
(だめだ……移動するしかないか?多分このままじゃ各地を爆破されて……ここも吹っ飛ばされて俺も死ぬ。俺は……本当に何と戦っているんだ!?)
じっと構えて待っていれば勝てる。そんな考えを甘いと認識したとき、彼はひどく後悔した。
「畜生……どうすればいいんだ」
足音がコツコツとその場所に響く。千絵谷はスマートフォンの画面とにらめっこをし続ける。
「え?」
――足音?なんで?
誰かが来る。
「だれだ?名前を。スマートフォンで俺にメッセージを――」
「その必要はねえよ」
男子トイレのその空間に入り込んできた何者かは千絵谷の入っていた個室の前にあるドアの取っ手を乱雑に掴むと勢いよく開けた。
「な――」
千絵谷の前には緑色に光らせた目が印象的な男がいた。つば付き帽子を被っていたその男はニヤリと笑っていた。
「ど……どうなってる。見張りは――」
個室から出ようとする千絵谷の口を覆うように男は手で掴む。
「心配すんなよ。ちょっと出てるだけだ。直ぐに戻るさ。お前が死んだ後でな!」
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