10-1 二月・弾いたコインに祈る行先
二月のその日、タカカミは本を読んで過ごしていた。
「こんな日ではどうしようもないですか?」
「ああ、どうしようもないな」
タカカミの自宅にて。タカカミとスズノカは外に視界を移す。
外はというと大量の雪が視界を遮るがごとく降り出し、外出に影響を及ぼすレベルだった。
「どこもこの分じゃ競馬も難しいか」
その為、タカカミはギャンブルを渋々諦めて買っては積もっていた本を読み始めていた。
「毎日そうして本を読んでいれば良かったのでは?その方がお金も貯まっていいことづくめだと思いますが」
「無理だな。足りなくなったからな」
「足りない……というのは?」
スズノカの疑問にタカカミはどこか悲しく笑って答える。
「刺激だよ。刺激。結局こうなったらどうしようもない。前にも話したが俺にはもうまともな趣味やる気がねえ。馬鹿どもが彫ったデジタルタトゥーのせいで表をロクに歩けねえ。だったらああいう場所で刺激と娯楽を求めるしかないのさ」
「……そうですか。ちなみに今は何を」
「これか?前にも読んだんだが……ある作家のエッセイでな。結構有名な奴だ。天才作家だとそれまで俺は思ってた。でも蓋を開けたら全然違う。女房と自殺未遂図ったりとか……そう。人間らしい苦悩を抱えた……いや違うな。ネット上だとクズだっていう人もいて俺もそうかもと思ったが――」
悩み巡らせてタカカミはその作家を例えようとした。スズノカは顔をしかめる。
「クズ……?あなたが言うほどですか?」
「どういう意味だそれ?」
「好きなように解釈してください。もう少しで儀式の日になります」
「ああわかった」
スズノカはそう言うと彼の前から消えた。
「今日は早めに帰ったな。アイツ」
彼のいた場所から本に視線を戻す。
「うーんそれにしても……結婚した後に何でこんな真似すっかな?しかも二回も」
エッセイの続きに綴られていたその内容を読み進めていた。
「この人の短編集にこんな感じの光景あったけど……まさかな」
やまぬ外の雪は強まる。白い世界がまた一層濃くなっていく。
「次の戦いは……何だ倉庫か」
深夜、戦いの日。転送先でタカカミは周囲を見渡すとその周囲の光景にまるで見覚えがあるかのように顔をニヤつかせていた。
「ええ。知っている倉庫ですか?」
「いや全く。だけど大体似てるんだよ。ここは……そうだな通販会社が所有してる倉庫だな。てかあそこにロゴあるし」
タカカミが指さした先には有名な通販サイトのロゴが壁にプリントされていた。
「雑貨品とかがさ、一枚のリストにずらっと書かれているのよ。それを一つ一つ歩いて持っていくんだ。一日八時間それをただ繰り返すの」
「八時間もですか?」
「ああ、ぶっ通しじゃないよ?途中休憩全然あるから」
苦笑いでしながら彼は言う。
「んで時には場所移動して……そうそう重いもんとかあるのよ。男だからさ、ある倉庫で連続で日雇いで入ってたらしばらくそればっかりでよ――」
タカカミの話は続く。しばらく彼の倉庫バイト昔話が一区切りついてため息を零す。
「っとわるい。俺は準備良いぜ?」
タカカミは銃を手にして笑う。スズノカはその話をにこやかに聞いていた。
「わかりました。それでは開始します。戦闘範囲はこの倉庫エリア一階のみです」
「あいよ。広いもんな。ここ」
彼女が姿を消して十一番目の戦いの幕が開かれる。
「えっとまずは地図だ」
地図を求めて彼は近くの出入り口に足を向けた。
「そうそうこれ。えっと――」
彼はその地図を見る。倉庫の広さをタカカミは自分の経験上、広い方だと推察する。
タカカミが今立っている出入り口は倉庫中心より上に位置していた。地図は九つのブロックで区切られており、AからIブロックで区切られている。縦横三マスで構成された倉庫で上のABCは商品棚だけでなく出入口がそれぞれ設けられていた。真ん中DEF列には商品棚と簡易オフィスが設置されている。下部GHI列は外からくるトラックを迎え入れる駐車スペースが存在しており、さらには梱包エリアがある。梱包エリアではピッキングされた商品を段ボールに入れて送るエリアであり、タカカミにとってこの倉庫はそこまで複雑な構造ではないと理解できた。
「さて相手は何処からくる……」
銃を手にして辺りを見渡す。
倉庫内は明かりがついており、光によって視界には問題はなかった。
「空間、人間……どっちだ?」
銃口を辺りに振り子のように揺らしながら彼は歩き、敵の出現を待った。現在彼はBから縦に向かってE、Hブロックと足を運ばせようとしている。倉庫内は閑散としており、規則正しく並んだ棚で視界が妙に悪い。そこからとびかかってくる可能性もある。
(どんな能力だ?今度は)
フォークリフトが通れる通路を歩きながら彼は相手の能力について想像を巡らせる。風が吹いて彼の頬を撫でる。その間も彼は倉庫内を歩き、Hブロックに差し掛かった。
「待て何で風が――」
瞬時、後ろを向く。そこには人間の頭ほどの大きさの黒い球体が浮いており、その球体を中心に風が球体の方へと、まるでその球体が吸い込んでいるようで――
「こいつはヤバイ!」
急激に吸い込む速度が上がった。大きな音を立てて周囲の商品棚からまるでかっぱらうかのように商品が飲み込まれていく。タカカミもまたその商品群と同じように吸い込まれそうになり、体が段々と引き寄せられていた。
「畜生……!派手にやりやがる!」
焦りながらもタカカミは蔦を地面から呼び出すとそれに包まれて地面に潜り込む。
黒色の喉は未だ音を立てて辺りの物を構わず飲み干し続けた。辺りの商品が散乱し、戸棚はバタリバタリと倒され散乱とした光景がそこにあった。
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