X-4 称えられし二十五の儀式、その全容
称えれし二十五の儀式。
それは人類の集合的無意識が産み落とした善意からなる透明な悪意。
称えられし二十五の儀式。
それは救いを求める者たち全ての答えを顕現させるもの。
称えられし二十五の儀式。
それは数多の血によって紡がれ、絶対なるものの生誕を言祝ぐ最悪の御業。
「『称えられし二十五の儀式』は全部で四つの幕というモノより成り立ち、最後には神を産み落として数多の苦しみを解かんとする内容でした」
タカカミはノートを手に四つの幕について口にした。
――第一幕。声に導かれた者、システムと共にこの世界において『蒼き星の神』を生み出すためにその身に『絶対審判』の秘術を宿す。全てを救う光は差し込まれる。
――第二幕。導かれし者たちの血と命を我らに捧げよ。対となる十二と十二の牙を食らい合わせ、最後の過程に残った者に資格を与えん。
――第三幕。『絶対審判』の元で資格ある者は己が宿す刃と意志を示し、その手を持って理の輪を持つ審判の命を砕け。さすれば理の外より紡がれる力、資格あるものに渡りて『蒼き星の神』は生まれる。
――第四幕。蒼き星の神は全てに対して手を伸ばす。その耳にはすべての苦しみが届き、神はそれら全てを消して安寧を作り起こす。そこにあるのは苦しみなき世界なり
「第一章にて声に導かれたものはスズノカを指しています。後に知ったのですが本当に彼女は悲しみの淵に立たされ、絶望を心に宿していました。それでこの儀式は幕を開いたのです。だからと言って彼女が悪いとは言えません。人類そのものを手にかけたのは私です」
タカカミははっきりと口にした。そしてテープに向かって話を続ける。
「第二章ですがこれは各月ごとに行われていた戦いを指します」
彼は再びノートに視線を移す。そこには彼が戦うことになった善人側と呼ばれる者達十二人が持っていた秘術と彼がいた方の悪人側十二人の秘術が記されていた。
「第三幕は……第三幕は――」
声が詰まっていた。涙を流していた。
神の力の為に多くの者をその心に正義を宿して潰していた者、昏仕儀タカカミ。彼が唯一、人生で犠牲になったことに傷つき涙を零した女性。本当の名は馬酔木(あせび)スズノカだった。
「ああクソッ!」
机を叩いて機材の録画機能を止める。
実はこの部分の記録はこれで四回以上失敗している。
失敗の要因は彼女の死が脳裏に焼き付き、時折思い返すようになっていた。
「どうしてお前が犠牲になる必要があるんだ……!」
ノートを睨んだ。正確に言えば彼はノートの先にいるモノを、システムを睨んでいた。
何かに躓いた時、人は人生で一番の失敗やトラウマを呼び起こす時があるという。
彼の場合は高校での暴力事件と彼女の死。彼女の死は暴力事件よりもはるかに彼の内に深く刻まれ、以来彼はそっちの方を思い返すようになる。自分の人生を捻じ曲げられた時よりも遥かに痛みの走った出来事ゆえに。
「仕方ない……こっちは一旦置いてまずは先にその先について語ろう」
彼は『二番目の四月―その一』と題されたテープに印をつけるとそれをしまい、別のテープを取り出してそっちにまた別のタイトルを点けると彼はそれを録音機材にセットする。そしてノートにメモした内容を確認しながら彼は次に記録することについて記録を始めた。テープのラベルには『二番目の四月―その二』と書いた。
「『称えれし二十五の儀式』は……蒼き星の神を選ぶためにルールある殺し合いの中で二十六番目の秘術を継承できる者を探り出す戦いであったのです。ついに私はその資格を得ることが出来ました。そうして得た第二十六番目の秘術。それは今までに出てきた二十五の秘術の内、二十四の秘術を魔力という枷なしで無条件で行使可能な秘術でした。さらに不老不死の肉体と化すという神らしい秘術までついて来たのです。秘術が一つ抜けているのは『絶対審判』の秘術です」
行使できる二十四の秘術について彼は説明しようとノートを見る。そこには彼がまとめた絶対審判の秘術以外の二十四の秘術について書かれていた。
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「これら全てを行使することが私は可能になりました。絶対審判の秘術については……これは秘術そのものが儀式のために使われるためで行使するには今一度儀式をする必要がありました。しかし私にはその必要もなければ、無駄なのです。というより……新たなる儀式は私の方から起こすことは出来なかったのです。神たる私にも。何の為の神の秘術か」
――ここまで説明したってことはこの作業もいよいよ大詰めか
録音を進め、それを止める。彼は部屋に積みあがったテープの山を見る。いずれもケースに個別に入れられており、ケースとテープ表面には『四月』、『五月』、といったように丁寧な字でラベリングがされていた。
「俺がいつか忘れても思い出せるようにってしてた作業だけど……どうしてこんなことしてるだか」
次に外を見た。昼の日差しが指してた頃。彼はスッと立ち上がるとマンションの自室を出てある場所に向かおうとしていた。しかしそこで彼は思い出したかのように部屋の押し入れから何かを取り出す。ノート数冊なら優に入る彼の部屋に似つかわしくない桐の箱。無言でそれを開けると中には桜色のマフラーとそれに巻き取られるように一つの桜色の封筒が一つ入っていた。
(桜色……好きだったのか?)
それを見るのは何度目だろう。そう思うのは何度目だろう。
最初に手を伸ばしたのはマフラーだった。マフラーからは彼女の匂いがまだかすかに残っていた。タカカミは彼女の匂いを最後の戦いの前に抱きしめていた時に覚えていた。だからそれの匂いを嗅ぐたびにタカカミは彼女の存在を感じ、涙を零すのである。
「なんで……俺に『生きてほしい』って願った。死にたいから俺に生きてと言ったわけじゃないんだろ?」
マフラーを丁寧に箱にしまう。そして桜色の封筒を手に取る。
「……ばかやろう」
何度も彼女の死を彼女に対して怒る。もういない彼女に。
「やるか。最後の部分」
再び椅子に座り、彼はテープをセットして録音を開始した。
その手に封筒を持ったままで。
「絶対審判との戦いの後の事です。次に私が目を開いた時、私は誰もいない孤島にいました」
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