6-3

「見つけたぞ!!お前がスズノカちゃんを困らせている奴だな!!」


――なんだこいつ


 暗き夜の中を燦燦さんさんと照らす遊園地、その中心に広がっていた花畑。そこに足を踏みいれた時、ビリマルと秘術『妬心愚者』の担い手である昏仕儀タカカミは出会った。タカカミ曰く、この戦いで最もバカな奴だったという。


「あー……君は何だ?見たところ学生のようだが?」


「俺か?俺はビリマル!スズノカちゃんの彼氏になる男だ!!」


「じゃあなればいいじゃんよ」


 異様なテンションの相手にタカカミは気怠げだった。しかし来ていた青のロングコートの下には拳銃を忍ばせており、彼の能力が何なのかを推察しながら銃をコート下で手に握っていた。


(電気……糸……紙……どれだ?)


 攻撃は可能だった。しかし今目の前にいる相手はこれまで戦った相手とはいろんな意味で違っていた。その為、彼は攻撃を迷っていた。


(どうする?カウンター系統なら面倒だ。下手に銃は使えんし――)


「聞いてるのかそこのお前っ!!」


「……はい?」


 真剣に考えているタカカミの前で実は彼はスズノカについて語っていたのだ。なぜ彼女に惚れたのかとか言ったそういう内容である。


「お前……スズノカちゃんのなんなのさ」


 真剣な目で見つめてくるビリマルが鬱陶しく思えた。だが彼はコートの下の銃から手を離すことはしなかった。


「知らねぇよ。突然現れたんだよ。そして俺に殺しをやれと……この儀式への参加を要求してきやがったのさ。参加しないなら死ぬって言ってきてよ」


「じゃあ彼氏じゃないのか?彼ピでもないのか?!」


「なんなんだよお前。新手のバカか?」


 タカカミは未知の存在に出会ったかのような気分だった。最も彼がロクに誰かとの交流を避けているだけだからもしれないが。


「俺は……俺はあの子に笑ってほしいだけなんだ!!」


「はい?」


 純粋で真っすぐな瞳をキラキラさせながらビリマルは答える。


「俺と話をしているときの彼女は暗かった。どうしてと理由を聞いた。そしたらあの子は俺にこう言った。自分が殺人ほう助をしているって。その原因がこの儀式で俺が勝てば解放されるって。あの子は悩んでたんだ。いや違う。苦しんでたんだ。この儀式のせいで。お前のせいで――」


 タカカミは長い演説を聞かされるのは嫌いだ。それが下らないとなると。コート下の拳銃を引き抜いて即座に二発発砲した。


「……なに?」


 弾丸は何物にも当たらず、それどころか正面にいたはずの男がいない。


「こっちだ!」


 ビリマルはタカカミの正面でなく右側に立っていた。何かがタカカミに迫る。それを瞬時によけて彼の方を見ると、その手にはバチバチと花火のような音を立てながら光る青白い球体を浮かばせていた。


「これは……電気か!」


「正義の稲妻食らわせたらぁ!!」


 ビリマルは電撃を纏っている玉状の光をいくつも形成し、そしてタカカミに向かってそれを発射した。


「またか」


 タカカミは再びそれをさっきよりも早い横跳びで回避し、銃を放つ。足元の花が舞い散る中で二人の戦いは加速していく。


「甘いぞ!!」


「なっ!?」


 回避した先にビリマルが勢いをつけて突っ込み、その手に蒼き電撃を蓄え、構えている。


(マズイ……だったら!)


 それをさらに回避しようとタカカミは別の案を実行。


「え?地面に潜る気か!?」


――なんだと?


 タカカミはぎょっとした。彼は回避が間に合わないと判断していた。そこで蔦の力を使って一旦地面に潜ろうと画策していた。しかしそれをどういうわけかビリマルが口にした。だがだからと言ってビリマルが何かできるわけでもなく、タカカミは蔦の群れに自身を取り込ませてそのまま地面に潜り込んでいった。地面に潜り込んだタカカミは今の戦闘を振り返りながらその場所を離れていく。


(どういう事だ……なぜ俺の動きがわかった!?あの電気……まさか俺の中の電気信号を読み取れるとでもいうのか?人間の体には絶えず電気信号が流れていると聞く。前に呼んだSF小説に出てきた話で確か、電気信号を読み取って動く義手の話があったな。あれのようなことが……つまりは電気信号の読解による応用で読心術が可能で……しかも高速で動き電撃を放つ。なんて面倒な秘術だ。反則だろ!!)


(どうなってんだ……嫉妬に関する秘術って!?スズノカちゃん俺には嫉妬を媒介にした秘術だってくらいしか言っていなかったからこれは予想外だぞ!?潜ったり銃弾を作ったり……後は何ができるんだ?恐ろしい相手だな。六人も殺されたのが納得できるがちょっと反則だろ!?)


 互いの姿は見えなかった。互いの秘術の恐ろしさを認め、タカカミは地面に潜っていったん花畑を離れ、ビリマルも距離をとるためにその場を離れることにした。偶然にも二人が移動したとき、互いに全く逆方向を向いてその場を離れていた。






「くそう。俺の電撃なら楽勝だと思ったのに思ったより厄介な秘術だ。いやそもそもあれはなんなんだ?」


 ビリマルは悩んでいた。

 彼は今遊園地の北東エリア、電気が通って動く無人の観覧車の近くに設置されたベンチに座っていた。先ほどのタカカミとの戦いをノートを開いて思い返しながらどうやって立ち回るかを考えていたのである。


「うーん……多分能力はあの二つだけだよな?」


 彼が見た能力は二つ。一つ目は銃弾の生成。正確にはマガジンを掌に文字通り作り出しておりおそらく魔力が尽きるまでならまだ作れるのだろうと推察した。二つ目に蔦の召喚。これは恐らく蔦を自在に操り、更には蔦に囲まれる事によって地面に潜り込むことが可能な秘術。


「いや待て。このノートがいう事が正しいのなら……俺は『電気』という一つのカテゴリで三つも技があるんだ。電撃攻撃と神経と筋肉に作用しての肉体強化、おまけに神経を通る電気信号の読解による読心術。きっと相手にも何かもう一つ技があるかもしれない」


 ノートに記されていた自分の能力について振り返る。残りの魔力を確認してノートを閉じると周囲に向けて意識を、正確には能力を乗せて広げるイメージを持って広げて見せた。


(これは……この周囲にはいないか?)


 魔力を温存しつつ読心術が可能な範囲で意識を伸ばしてみたが反応はなかった。ビリマルは警戒しつつもその場から動き始めた。


(相手は銃を持ってる。慎重に立ち回りたい。でもどうすればいい?やはり物陰に隠れて動いた方がいいよな?下手すりゃハチの巣だぞ……)


――そうだ、もしかしたら自分が殺されるんだぞ?


 それを自覚したとき、手に震えを感じた。


(お、落ち着け俺。俺だって力はあるんだ。銃が何だ。蔦が何だ。そうだ!俺はこの戦いに勝ってスズノカちゃんとデートするんだ。この遊園地で!!)


 淡い約束を胸にビリマルは俯いた視線を遊園地に向ける。

 深夜ではあったが遊園地のアトラクションと道に並ぶ該当のおかげで視界には困らなかった。辺りの道は丁寧に照らし出され、キラキラ輝くアトラクション達の光はこれから初めて人殺しをしようとするビリマルの心をどこか楽しさを持って励まそうとしていた。近くの看板に掲載されていた地図を確認してから見る。


(そうだ。ビビったら負けだ。突っ込もう。敵の懐に!!)


 敵の懐というのはこの時見えている訳ではなかったがビリマルの足は勢いよく駆け出して観覧車から別の施設へと駆け出していた。





――電撃、瞬間移動、そして読心術。うん。面倒だ


 遊園地南西側のフードコートエリアにてテーブルの上にノートを開きながら昏仕儀タカカミは相手の能力の厄介さにため息を吐いていた。


(これはまず読心術を回避する必要があるな。こちらの手に銃があるとはいえ撃とうとしたりすればあの瞬間移動でよけられ、更には電撃攻撃が待っている。電撃は回避すればいい。でも魔力だって多いわけじゃない)


 先ほどの戦闘で彼は三割ほどの魔力を使っていた。妬心愚者の秘術で蔦を使い、隠れて移動する際に消費したからである。


(だが魔力に関しては向こうも同じだ。読心術にしろ電撃にしろある程度は使っているはずだ。いやそんなのに期待するな。魔力切れなんぞに)


 自分を諫めた。相手のミスに期待するなんぞ馬鹿げている。ならばこちらの手札を切って倒しにかかるべきだ。しかしそれでも相手の能力に辟易しているのは確かでタカカミはテーブル近くに置いていた銃を手に取る。


(マガジンは変えた。これで残り魔力は六割近く。別の銃を生成して殺すという手段もあるが……そうだスナイパーライフルなんてどうだろうか?確認したが生成するに五割は持ってかれる。でもこれなら読心術を回避して殺せる。だがリスクはある。外した時だ。それに狙撃ポイント……でよかったか?戦争を描いた小説だと確か何処に隠れないといけないけど――)


 タカカミは辺りを見渡す。深夜ではあったが遊園地の光は灯されており、隠れるとしたら遊具の裏手といったところ。


(狙撃ポイントとして選ぶなら高いところか見えづらい暗い場所。高いところは……敷地内だとあの観覧車くらいか。でも観覧車は入ったら最悪身動きがとりづらくなるからないな。暗い箇所は……もっとないな。こっちから見えなく可能性がある。狙撃はちょっと難しいか。アトラクション入りの建物も外が見えない仕様だし登ろうにも多分あれは入れないか)


 思案を巡らせるもじわじわと詰まっていく感じがタカカミを襲い、舌を打つ。いら立ちに変化するのはそう長くはなかった。


「仕方ない。明かりの道を避けつつ、基本は道の両脇にある林に身を潜めるか。狙撃はそこから見えるかどうかで考えるとしよう」


 『狙撃』という手札に安心を覚える。今までこれをしなかったのは単にそうした機会がなかっただけであり、この広い敷地内ならば使える戦法なのではとタカカミは踏み切った。


(製造は隠れてからにして慎重に行こう。奇跡的にコイツを当てられるかもしれない。暗殺という手段が俺にはある)


 マガジン式の銃を手に取って照準を周囲に振りまくように向ける。


(銃は当たらんだろう。あの読心術と瞬間移動がある限り。ならそれが使われるよりも早く銃弾を当てればいい。そうなるとさっき手に取ったマップでいい感じの場所に潜んでと――)


 地図を広げる。ここに隠れる途中までに彼が見つけた遊園地側が配布しているポケットマップだ。膨らんでいるように広がっている林のエリアを見つけるとそこに記を持っていたペンでつける。


(まずはここに隠れよう。そして見つけたら撃つ。時間内に見つかればの話だがな)


 マップと銃をしまいながら立ち上がると彼はそのポイントに向けて歩き出した。


(それにしても深夜なのに鬱陶しい光だ。まぶしいったらありゃしない)


 深夜だというのにぎらつく遊園地の明かりに彼は不満を募らせていた。

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