第3話

 ――眠る時に見る夢は、自身の記憶を元に作られる。


 そのようにテレビか本で見た気がする。


 つまり、私は森の中にいた。だから、夢の中で森が出てきたということになるのだろうか。


 しかし、木や地面の感触やら見た目やらがあまりにもリアルすぎるけれど。


 まあ、いいか。

 何だか何もかもがどうでもよく感じてしまう。


 前までそれなりに几帳面だったのに。

 もしかしたら別の生き物になってしまったから感性が変化してしまったのかもしれない。


 気にせず私は、森の中を歩く。

 現実では眠くて眠くてとても身体を動かす気にはなれなかったけれど、今はまるで違う。


 全く眠くはないし、頭の中もすっきりしている。

 正直、気分的に絶好調という状態であった。


 なので、のんびり散策を始めた。まあ、ここは森の中とはいえ自分の夢の中だけど。進んだ先に何かあるのだろうかと、期待して足を進めたのだ。


 周囲は樹木が鬱蒼としているだけで、何一つとして変わり映えしない。

 ひたすら似たような光景が続く。何なら、生えている木一本一本が同じ形に見えてくる。


 まるでコピペしたみたいだなあ、と思いながら五分ほど歩くと森の外が見えた。


 歩きながらちょっと退屈だなあと思っていたので、似たような景色から抜け出せて嬉しく思えどもしかし、森を抜けた先には驚くべきことに何も無かった。


 そう。文字通り、何も。


 殺風景で真っ白空間がどこまでも広がっていたのだった。


 何でこうなっているんだろう、と思いながら森から一歩足を踏み出してみる。


 真っ白な地面に私の右足の裏が触れる。


 その瞬間。身体の中から何かがごっそりと減った。


 そしてその数瞬後に私の右足を囲むようにして周囲から凄い勢いでみるみる雑草が生え始める。

 まるで一枚の紙の上に色のついた水を落としたような、そんな感じで――


 ……驚いた。私が触れた場所を中心にして緑色が広がっていく。


 試しに左足も踏み出してみる。


 すると、さらにそこからも背の低い植物がざわざわと生え始めたのだった。


 そして、三分もすれば、私の前には見たこともない草原が広がっていたのだった。


 ♢


 私は夢魔。夢に住まう魔物。なぜか本能的にそう思っている。


 だから、きっと夢を作り変えたり、広げたりすることが出来るのだろう。


 先程とは一変した光景を眺めたら、そう結論付ける。


 そして、つい今し方経験した自分の中の何かがごっそりと減ったような奇妙な感覚を思い出す。


 前世ではそのようなこと一度も無かった。なら、多分あれだ。魔力とかいうやつだろう。


 夢魔である私は、魔力を消費することで自分の夢の内容を改変することが出来るのだ。


 その認識で間違いないと思う。


 まあ、違っていたら、その時はその時だ。


 魔力なんて前の世界では無かったから、もしかして減ったのは魔力ではなく寿命かもしれないという可能性は捨て切れないけれど、まあ本能的には魔力かなあー、と思いながら私はとりあえず飽きるまで歩きながら草原を拡張させてみることにしたのだった。

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