19,からだは正直

 死ぬ前に、もう一度だけ空を見上げよう。そう思って僕は、海沿いに伸びるサイクリングロードのサイドに建っている、木の柱で組まれた見晴台に腰掛けた。見晴台といってもたった2段の段差があるだけで、明るい時間は昼寝をしている輩や腰掛けて海や日の出日の入りを眺めている輩をよく見かける。明け方にイカ拾いに出かけたときに会話した僕より少し若く見える女が「ここで朝焼けを眺めながらサザンを聴くのが好きなんだー」と言っていた。まぁ僕のように2次元に生きてきた者にとってはここいらに由縁のあるサザンも加山雄三も無縁な話だ。


 あぁ、綺麗な空だ。僕はこれからこの重たいからだを抜けて、あっちへ旅立つんだ。


「さて、カネがない以上死ぬのは時間の問題だ。潔く去ろうじゃないか」


 独り言の後、僕は空腹で朦朧とした意識の中、最後の力を振り絞ってズボズボと砂浜に足跡を刻み、波打ち際まで来ると靴を脱いで水に浸かった。


「ううううううっ」


 冷たい。予想以上に冷たい。風がない分マシだと思ったが、これは死ぬどころか目が覚めてしまう。命が果てたらお終いのからだは正直ということか。屈辱だ。僕は自殺もできない根性なしだったとは。


 あっさり溺死を諦めた僕は砂浜に腰を下ろし、しばらく経つとそのまま倒れて寝落ちした。



 ◇◇◇



「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」


 なんだ、雪姫たんが僕を呼んでいる? これは夢の中だとは理解できるが、もしやこれが天使の声か? 僕は餓死してあの世へ連れて行かれるのか? なんだか少しぽかぽかしている気もするし、一件落着、これからはあの世で悠々自適な日々が待っているのか……。


「うおおっ!?」


 そう思った直後、僕に何かがぶつかって激痛が走った。

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