18,社会不適合者の末路

 コミケに行かずじまいの大晦日の夜。僕のことなど知らんぷりで年越し蕎麦をすすりながら紅白を見る親共を余所目に、最後に自分の醜い姿でも見ておこうと洗面所の鏡の前に立った。


 暗闇に浮かぶ無造作に髭が伸びたデブ男。飛び出そうな感覚の目玉はむしろ健康だった頃より引っ込んでいて、二重瞼なのにそこらにいる一重の奴らより細くなっていた。


 これが社会不適合者の末路か。


 ただこんな僕にも人様に役立てたことがある。雪姫たんの警護だ。何度もマッポーに呼び止められはしたが、その怪しさ故に本物の不審者は近寄ってこなかった。それに雪姫たんのご両親にお願いされての警護だから、禁断の果実を連れていようと犯罪にはならない。


 もしかしたら僕は、君を護るために生を受けたのかもしれない。だけどごめんよ。世の中やっぱり、お金がないと生きてゆけないんだ。僕には社会に上手く溶け込んで稼ぐに適した能力がまるでないんだ。


 幼き頃から歩き慣れたサザン通り。酒場は年末のバカ騒ぎ。団らんの空気に容赦なく突き刺す乾いた風。


 あの雰囲気に混じって暖を取りたいとは思わないが、僕は僕に合った、人間らしくいられる場所が欲しかったと、もう叶わぬ願望に気付く。


 せめて雪姫たんともう一度……。


 だけどこんな不潔な身なりでは嫌われてしまいそうで、とても会う気にはなれない。


 想いを巡らせているうち、辿り着いた砂浜。波は穏やかで、澄んだ夜空に星はぱちぱち瞬いている。波音や星空もまた、二次元がすべてだった頃の僕にとっては意識の外で、童心に帰った気がした。


 空へ旅立つため今、水底へ沈もう。そうすればもう‘生き苦しい’世の中とはおさらばだ。


 さらば現世よ、来世では社会の仕組みや人間関係など気にせずに済む、気楽な場所に産み落としておくれ。

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