12,温水プール

 11月に入り、冬コミまで2ヶ月を切った。日曜日ということで病の流行る冬でも健康なボディーを保つためにと市内の温水プールに来ているが、僕は今回も御伽野夫妻から雪姫たんのボディーガードを懇願された。僕がボディーガードに抜擢されて毎度反発するアリスだが、雪姫たんに危険を及ぼす野蛮な輩に脆弱なメス豚であるキサマの力では到底太刀打ちできない現実をご両親は理解されているのだ。


 今回も交通費ほかプールの入場料および食事代等このレジャーに関する一切の費用は御伽野夫妻持ちで助かっているが、資金難は日々深刻さを増している。


 就職意欲のない僕を見捨てた両親は小遣いを提供しないどころか家賃まで要求するという横暴ぶり。抗って家賃を払わなかった月があったが、外出中に鍵を交換されて家に入れなくなり、インターネットをインフラストラクチャーとする僕にとって、その暴挙は極めて耐え難いものであり、更にはボロアパートよりも低額な家賃1万円とあって要求に応じざるを得なくなった。


 更に更に近所のコンビニでは廃棄弁当を狙った盗人が出没するようになったらしく、防犯体制を強化したため廃棄弁当を持ち出せなくなってしまった。まったく何処のどいつだ盗人というのは。


「ねぇ、お兄さんはどうしてお仕事しないの?」


 イッチニーサンシッ! 塩素のにおいが漂うムッとしたプールサイドで準備体操をしているとき、横で同じく体操するぶっふぁー! なスク水姿の雪姫たんに訊ねられた。


 ぶふぁーぶふぁー、フンフンフン! クンカクンカしたいけどそれはいつか雪姫たんが気を許してくれるまで取っておくよ。


「そうよ、資金難ならバイトでもなんでもいいから働きなさいよ」


「黙れ競泳水着など46億年早いメス豚め!! 僕は僕のアイデンティティーに基づいてニートをしているんだ!!」


「うるさいわね。室内で叫ばないでくれくれる? 他の人たちビックリしてるしアンタのドブみたいな騒音がエコーしてるじゃない」


「キサマが僕の琴線を大きくたわませたからだろう。まぁ今は雪姫たんが僕のフィロソフィーを聞きたがっていらっしゃるから怒りをグッと堪えて説明してやる」

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