11,僕はいくら頑張ってもニューハーフまでしか行けない

「うぐはぅあああ!!」


「なにようるさいわね」


「黙れこのボケナス!!」


「だいじょうぶ? お兄ちゃん」


「うん! だいじょうぶだよぉ。心配してくれてありがとね雪姫たんっ」


 にこっと今日も天使の雪姫たんと、無礼にも同じ遺伝子を持つ姉、いや、未確認生物にも及ばぬ怪物のような何かであるアリス。その両親からボディーガードを頼まれたボクは、一人と一体を連れて市内の山へ、ピクニック。ボクと雪姫たんが山菜採りに勤しむさなか、あろうことかアリスはレジャーシートに腰を下ろし、ステンボトルで麦茶を飲んでいる。


「お兄ちゃん、どのくらい採ればいいの?」


「うん? 疲れたのかい? なら無理しないで休むといいよ」


「ごめんね、お兄ちゃん、ありがとう」


 雪姫たんは恐縮しながらレジャーシートに腰を下ろす。あぁ! なんてかわゆいのだ!


 本日僕らがこの地へ降臨せし理由だが、夏の同人誌即売会で資金難に陥った僕の当面の食糧を確保するためだ。野草やキノコ採取のほか、味噌汁の具として外来種であるアメリカザリガニを捕獲し環境保護に貢献するというニートどころか人類の鑑といえる活動をしている僕はもはや神と呼んで過言ではない。


 ここで気を付けねばならないのが、誤って毒性の強いものを摂取して中毒を起こしたり、絶滅危惧種の採取により自然破壊を促すなどモラルに反する行為だ。これはニートやオタクのイメージダウンに直結する事象なので特に注意しなければならない。


 いやはやこのピクニックは本当に助かった。夏休みの自由研究に行き詰まってくれた雪姫たんには心底感謝で頭が上がらない。


 自由研究の対象は百合の花らしいが、なんと抜群のセンスだろう。可能ならばこの僕が雪姫たんとゆりゆりしたいところだが、生物学という壁は現代の技術では越えられないようだ。ごめんよ雪姫たん、僕はいくら頑張ってもニューハーフまでしか行けないんだ。


 しばし休憩後、僕ら三人はそこかしこに点在する百合の写真を撮り、花や葉の形状をよく観察して資料集めを終え、下山した。有難いことにバス賃は御伽野夫妻が負担してくれたため、出費はゼロだ。


 さて、これから冬コミまで、僕は働かずに生き延びられるだろうか。

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