8,カネのために参加した非オタJK

「そこ走らないで!」


 10時の開場から異様な盛り上がりを見せる同人誌即売会場。近所に住むニートに何人かの諭吉さんをチラつかせられて買い物を手伝うことになったけど、なんなのこの異様な熱気。ただでさえ暑いのに臭うわ窮屈だわもうサイアク。会場は安全確保のため走行を禁止しているけど、それでも目当ての商品のために走る人はちらほらいて、係員に大声で注意されている。


 会場は東、西、企業の三つの建物に分かれていて、私が並んでいるのは企業ブース。企業ブースは地上2階にあるのに、私がいるのは1階脇の駐車場周辺。


 90分待ちってなにそれ、聞いてないんですけど。


 列に並ぶ私以外の人は殆どがあのニートと気が合いそうな人相で、萌えキャラのTシャツを着ながら萌えキャラのハンドタオルを巻いている。見渡す限り女の人の姿は無く、私だけ浮いた感じがしてソワソワする。


 ニートから言われた通り、スポーツドリンクと水を交互かつこまめに飲んでいるおかげで体力的にはあまりつらくない。周りの人たちが飲んでいる萌えキャララベルの飲み物は何処で売っているのだろうと思いつつ、欲しいとは思わなかった。


「担架通りまーす!」


 後方50メートルの辺りから大声が聞こえたので振り返ると、係員が二人がかりで小走りしながら担架を担いでいた。担架の上では泡を噴いた人がぐったり横たわっていたけど、周囲は「恒例のね」とか「あーあ、今回一発目かな」などと慣れたものを見るように話していた。ニートから倒れる人が出るとは聞いていたけど、実際に要救助者を目の当たりにすると、少しゾッとした。


 即売会で倒れないようにするには、参加前夜には睡眠時間をしっかり確保し、栄養や水分摂取などの健康管理を欠かさないようにしなければならないと強く言われた。


 騒ぎが収まり、少し気が緩み始めたところで退屈が襲い始めた。若い男たちが携帯電話で通話しながら購入待機列の現況を報告したり、ポータブルゲームで遊んだり。ジリジリとセミの声も聞こえてくる。私もスマートフォンで何かしようと通信を試みた。


 え? なんで都市部なのに通信不能なの? あ、参加者こいつらのせいか。人が集まり過ぎて混線し、通信困難になっているのだろう。


 あーもうヤダ。これが終わったらあと二ヶ所並ばなきゃいけないなんて。バックレて帰りたいけど、破格のバイト代が出るからそれは惜しい。ゲットしたアイテムによって報酬は異なるけど、一番高い抱き枕カバーは一点につき1万円、タペストリーは5千円、グッズセットが2千円、それ以外は千円。抱き枕カバーは何がなんでもゲットしなきゃ。


 少しずつだけど列は動いているし、よし、頑張るぞ! お金のために!!

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