7,サブカルで世界を救う僕らの挑戦

 頭クラクラ目にはクマ、心には気合いから滲む汗。午前10時、即売会開始のアナウンスとともに、このときを心待ちにしていた参加者たちの盛大な拍手が東京臨海副都心の大空に響き渡る。


 一刻も早くお目当てのブースへ辿り着きたいところだが、ここで走ったらそこかしこに立っている準備委員会の者に取り押さえられてしまう。だからここは努めて速歩きだ。購買待機列での割り込みは禁止だが、そこへ辿り着くまでの歩行中の追い抜きは正義だ。というのも、チンタラ歩いているといつまで経っても人が捌けず、周辺道路や会場内で非常な迷惑となるからだ。即売会場では、走らず、速歩き。これ鉄則! だが身動きが取れない場所での無理な速歩きは事故に繋がる恐れがあるからケースバイケース。モラルが問われるのだ。


 アリスには企業ブースでの買い物を頼んだが、大丈夫だろうか。


 この即売会では物品を販売する棟が東、西、企業ブースの大きく三つに別れており、僕は現在東棟にいる。いずれも鮨詰め状態で、数百メートルに及ぶ購買待機列を探すのさえ一苦労だ。しかも並んだからといって必ずしもアイテムを入手できるとは限らない。


 こういうときにぼっちは不利だ。同志がいればそれぞれが慣れた足取りで効率的にブースを巡り、アイテムゲットは確実性を増す。しかも人件費がかからないので、あのアバズレ女を雇うよりよほどお得だ。そしてなにより、自らが愛する二次元美少女について熱くじっくり語り合える。


 そうこう想いを巡らせているうちに購買待機列に辿り着いた。直射日光の下、40分待ちだ。先頭など見える訳がない。便意を催さぬよう、しかし熱中症でダウンせぬよう、スポーツドリンクと水で適切な水分補給を行う。


 首にキャラクター柄のタオルを巻いた若人たちは、まるで社会発展のために汗水垂らす労働者のよう。そう、サブカルへの投資は立派な社会貢献だ。この不景気で明日の生活さえも不安な世の中で我々は今、僅かな資金を握りしめて国へ貢献しているのだ。それを世間の連中はオタクキモイだのなんだのと好き放題言いやがって! キサマらには僕らに匹敵する情熱があるのか!? え? コラ、言ってみやがれ!


 心も経済も底冷えした日本を、いや、世界をサブカルで救う僕らの挑戦は、まだ始まったばかりだ。

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