6,入場待機列

 夏が来た。暦の上ではもう秋だけど、僕にとってはやっと夏がキター!!


 ご先祖さまたちが天より舞い降りしお盆の早朝5時、‘僕ら’は都内のホテルを出て乗り切れない者が発生するほど超絶ラッシュの初電に乗り、とある駅に降り立った。すぐそばにある逆三角形の建物付近に長方形の入場待機列が団地のようにおびただしい数で形成されている。


 おっと、たったいま、天空を星が流れた。今日はいいことありそうだ。


「うむ、これほど朝風を心地良く感じられる日は今日からの年三日だけだ。冬も早朝から列に並ぶが、空っ風は拷問でしかない。まだ雪国の内陸部にあるアニメショップの前で開店待ちをしていたほうがマシだ」


「ほんっと、こんなにアグレッシブなんだったら真面目に働けばいいじゃない。あーもう眠くてしょうがない」


「おのれ御伽野アリス、キサマ開場前にトンズラこいたら宿泊費と交通費は返還してもらうからな」


「えっ!? イヤよ! 1万円以上かかってるじゃない」


 そう、これから僕らは同人誌即売会という戦に参戦する。一つでも多くの戦利品を入手すべく、高額な人件費をエサに近所の小生意気なクソJKを一人雇ったのだ。賃金制度は宿泊費は基本とし、獲得した戦利品の数やレア度に応じて千から万単位での歩合制を採っている、極めて割高なアルバイトだ。


 ククク、開場は約5時間後の10時。カネに釣られた愚かな三次元女よ、これから三日間、戦地の恐ろしさを味わわせてやるわ。

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