私の名前、読めますか?

祐希ケイト

私の名前、読めますか?

「名前は、当人にとって、最も大切なひびきを持つ言葉である」

 (デール・カーネギー「人を動かす」より)


 自分の名前をすぐに憶えてもらえると、その相手に少しは好感をもつでしょう。対照的に、自分の名前を間違えられると、ちょっとイヤな思いをするでしょう。

 名前というのは、この世に生まれてから、あるいは生まれる前から、その幕を下ろすそのときまで、長く人生に付きまとうタグだと思っています。


 太陽、希愛、星空、愛華……これらは実は同じ読み方をするそうです。太陽と書いて「ティアラ」、希愛と書いて「ティアラ」、星空と書いて……。

 こういった、いわゆる漢字だけ見ても読み方が一致しない、予測できない名前を「キラキラネーム」と最近では言います。キラキラネームの発祥は、週刊少年ジャンプで掲載されていた『デスノート』の主人公、夜神月やがみライトに由来していると言われています。

 デスノートに名前を書かれた人は四十秒後に心臓麻痺で死ぬという設定を主軸に、様々な人間模様を通して描かれた大人気漫画です。当然、デスノートを使った主人公、夜神月やがみライトは大量殺戮を行っています。もし、彼と同じ名前がこの世に存在していたら、ただ漫画のキャラクターと同じというだけで、人生は大いに苦しいものになっていたでしょう。それを懸念した作者は、敢えて実在しないであろうネーミングとして、「ライト」という名前にしています。ドラえもんのジャイ子も同じ理由です。


 しかし、最近このキラキラネームを我が子に付けたがる親御さんが増えて社会問題になっています。

 読者のみなさんも聞き覚えがあるのでないでしょうか。小学校低学年の宿題で、先生は必ずといっていいほど次のような宿題を出します。

「どうしてその名前を付けたのか、お母さんに名前の由来を訊いてみましょう」

 ここであらかじめ言っておきたいのは、キラキラネームと一概にいっても、名前に対する想いは皆同じだということです。自分の子どもには少しだけ特別な意味を持たせたい、どこのご家庭でもそれは変わらないものだと思っています。

 しかし、特別な意味を持たせるのに少しばかり過剰な思い入れがあると、それは前述したような読めない名前になってしまいます。


 皆さんはゲームをしたことはあるでしょうか。私は大好きです。

 ゲームをしていく過程で、ゲームによっては主人公の名前を決められることがあります。私は割とデフォルト、つまり設定通りの名前を今は使うことが多いのですが、昔はオリジナルの名前を考えては、あーだこーだと、名前を決めるだけで小一時間かかることもありました。やはり自分の分身のようなものですから、適当な名前は付けられませんよね。

 ただ、そのオリジナルの名前というのは、キラキラネームと酷似していると最近思いました。ちょっとでも特別感を出したい。平凡な名前ではつまらない。その結果、当事者からすれば気に入った名前でも、他人からすれば「なんじゃそりゃ」と思われる。


 子供はアイテムでも分身でもありません。ひとりの人間です。

 あなたにとっては大切なかもしれませんが、あなたにとって大切なではないのです。


 今はまだ幼く小さなお子さんですが、大きくなっても名前は変わりません。見た目がゴツく、ガタイのいい髭の生えたおじさんの名前が「太陽ティアラ」だったらちょっとイヤでしょう。

 近年になって、就職活動も不景気のせいで厳しくなり、就職浪人という言葉も生まれました。その最中、キラキラネームをもつ就活生が不利になっている現状があります。

 どういうことかというと、変わった名前を子どもにつけた親が育てた子ども=就活生も、変わった性格や嗜好しこうを持っているだろうという偏見があるからです。会社に入ってから問題を起こされても困る。だから落とす。こういうサイクルが一部の企業ではできあがってしまっているのです。

 しかしながら、彼らのうちの、ほんのひと握りは逆に、変わった名前のおかげで仕事に役立っている話を聞いたことがあります。

 それは、日本人には到底つけられないであろう「プリンス」という名前を持った商社マンです。彼はその日本人離れした名前のおかげで、外国の方々から、むしろ覚えやすい、と好評価を頂いたのです。

 この話をはじめて聞いたとき、そんなケースもあるんだなあと、私は素直に驚きました。


 これはあくまでもひと握りの話で、彼の話以外は未だに聞いたことがありません。それくらいキラキラネームを名付けられた人間というのは、ゲームでいうところの、人生最初からハードモードなのです。

 名前は一人に一つしか与えることができないのだから、特別すぎるのも考えものですね。

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私の名前、読めますか? 祐希ケイト @yuuki_cater

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