第5話 僕の遠い記憶
昔、近所に綺麗なお姉さんがいた。
お姉さんの声はとても綺麗で、僕はその人のことをすぐに好きになった。
きっとあれが初恋なんだろう。
お姉さんには妹がいて、僕と同い年ぐらいだった。
いつもお姉さんの後ろに隠れていて声が聞きたいのに話をしない子だった。
ある日、お姉さんがいなくてその子が一人で公園の砂場にいた。
声をかけたいけど一人で遊んでいるのを邪魔しちゃいけない気がして離れたところで遊んでいた。
すると、その子のそばに大きな男の子が来て女の子を突き飛ばした。
僕は頭に血が上って、その子の下へと駆けよって大きな男の子に飛び蹴りをしていた。
それからのことはあまり覚えていない。
男の子と喧嘩になって、お互いに泣きながら家に帰った記憶しかない。
あの子はどうなったのかな?
そんな余裕もなくて、いつの間にか消えてしまった記憶。
熱が出ると、いつも考えていないことを思い出してしまう。
熱が下がった僕は大好きな桃缶を食べながら、そんな夢を思い出した。
「母さん。近所に綺麗なお姉さんいたよね?」
「綺麗なお姉さん?ああ、あんたが大好きってよく言っていた人かい?」
「多分?」
「お姉さんじゃなくてお母さんだけどね。あんたと同い年の子を子供に持つ綺麗な人だったね」
綺麗なお母さん?僕と同い年の子ども?
「そんなことよりも、お見舞いに来てくれた女の子にお礼を言っときなさいよ」
「へっ?お見舞い?女の子?」
「なんだい?意識を失ってお見舞いされたことも覚えてないのかい?お見舞いに来てくれた子も凄く綺麗な子だったよ。名前は~あ~名乗ってくれたけど忘れちゃった。とにかく学校でお礼を言うんだよ」
お礼を言うと言っても誰が来てくれたのかわからない。
陰キャで女子と話したことがない僕のお見舞いに来てくれる女の子なんて誰かもわからないっての。
ハァ~もしも君島さんが来てくれたら最高なのにな……
「そうだ。最後のボイス変換で……よし」
【テル君。大丈夫だった?】
イヤホンから聞こえてくる君島さんが心配してくれる声に僕は溜息を吐く。
僕は……気づいてしまつたんだ。
確かに君島さんの声に変換は出来る。
声を聴くのは嬉しい……だけど、君島さんから心配されているのに、感情が伝わってこない。
「心配されている感が感じられないんだよな」
今まではよかった。褒めてくれるだけだから抑揚がなくても楽しめた。
だけど、心配されているときによくよくの声で大丈夫?と聞かれても本当に心配されている気がしない。
「ハァ~これは失敗だな……」
【テル君、大丈夫だった?】
もう一度聞くが今までのような喜びは感じられなかった。
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