第3話 あの子が見てくれてたらな

夏になると急な雨に悩まされる。



傘を持ってきたけど。



こんなにも凄く振っていたら意味無いじゃん。




ずぶ濡れになりながら雨の中を帰っている途中で段ボールが落ちていた。



こんなところにゴミを捨てる奴なんているんだと通り過ぎようとして



「キャン」



弱々しい声が聞こえてくる。



僕は自称、声フェチだ。



それは僕の耳がいいからだと思っている。



だからこれだけの豪雨が降りしきる雨の中であっても弱々しい声が聞こえてしまう。



「ハァー」



倒れたダンボールを開くと子犬が入っていた。



「ヒドイことをする奴がいるんだな」



もしも晴れた日なら、誰かに気付いてもらって拾ってもらえたかもしれない。


だけど、こんな豪雨の日にダンボールの蓋を閉めていたら誰も気付かないじゃないか……



「母さんに怒られるかな?よしよし。もう大丈夫だぞ」



タオルが無いので、制服の中に子犬を抱きかかえて家へと走る。



雨に濡れて泥だらけの子犬を風呂に入れて、母さんに子犬ようのミルクを買ってきてもらうようにお願いする。



「明日は土曜日だから、朝から病院行こうな」



腹が減っているだろうけど。

変に冷たい牛乳なんてあげたらお腹を壊してしまう。



「あんたはまた。ハァー仕方ないわね。ちゃんと自分で面倒見るのよ」


「は~い」



俺は猫とか犬が捨てられていると拾ってしまう。


子供の頃から遭遇率が以上に高い。


みんな天寿を全うして現在はタマと呼んでる老ニャンコが母の部屋で偉そうに腹を向けて眠っている。



「君島さんに優しいねって言われてみたいな~」



別に褒められたくてやっているわけじゃないんだけど。



あの声で優しいねって言われたら僕は最高に気分がいいだろうな。



「そうだ!残り四回の一つを使って変換をしよう!」


「キャン!」



腹がいっぱいになったからか、それとも体が温まったからか子犬は僕のベッドで丸くなり眠ってしまった。



僕はすぐにアプリを起動して、変換する言葉を考える。



「そうだなぁ~もし彼女が子犬を拾う姿を見てくれていたら、どんな風に声をかけてくれるだろう?」



君島さんの顔を思い浮かべる。


誰もが認める美少女で、他人のことが思いやれるクラスの人気者。


彼女は動物好きかな?



「よし、決めた。言ってほしい言葉はこれだ


【テル君、私見ちゃった】【凄く優しいんだね】」



二分も使ってしまった。



一つの文章として作りたかったけど。

どうにも音声消費と文章量が合わなかったようだ。

その辺も実験しないといけないな。



「じゃっじゃあ早速!」



僕は寝る前に聞いてしまうと寝れないような気がしたので、お風呂に入る前に再生ボタンを押す。




【テル君、私見ちゃった。凄く優しいんだね】




脳がトロける~~~~




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