第14話 悪魔祓い


 黄金を収容していたコンテナが行方不明になりました。


 翔と契約した優男もとい天遊学園二年三組所属・鬼灯蓮也ほおずきれんやのスマートウォッチにそう連絡が来たのは二時限目の授業のことだった。そのとき彼は平衡感覚すらも失うような感覚を覚えた。


 その後のことは彼もよく覚えていない。二時限目の授業の大半は頭に入らず、それが終わると彼は学校を早退し例の港湾地帯へ急いでタクシーで向かった。


 連絡通りそこには黄金を収容していたコンテナはなかった。


 天遊島にはそこで暮らす大人はいるし、島の企業、施設で働く社会人もいる。蓮也は学生であるため、平日の昼間は自由に動けない。よって彼は島の大学生、もしくは大人を雇っていた。連絡はその雇われている彼らからのものだった。蓮也はすぐさま彼らから話を聞き、コンテナの所在確認と原因究明を進める。


 彼が危惧するのはただ一つ。手元に黄金がない状態で、顧客から黄金の引き出しを要求されること。


 だがそれも心配ない。彼の顧客の大半は天遊学園生徒、それも一年生だ。入学したての一年生は鴨にしやすいためだ。今日は平日、それも午前中。ならば少なくとも放課後までは黄金の引き出しはない。だから、それまでに最低でもコンテナの回収はしておけばよい。


 だが、その期待も虚しく打ち砕かれる。彼のスマートウォッチは顧客から黄金の引き出しの要求があったことを無慈悲に通達した。



 もうそこからはてんやわんや、上へ下への大騒ぎであった。


 蓮也は動かせる人員を総動員してことにあたる。


 第一目標はコンテナの回収。第二目標は原因の究明。そしてそれと並行して、万が一に備えて黄金の調達。顧客から黄金の引き出しの要求があった以上、契約で一二時間以内にその準備を完了し、引き渡しを行わなければならない。だが、今彼の手元には黄金はない。ならば調達するしかない。だが、天遊島は人工島であり、黄金なんぞ採掘されるはずがない。すると、黄金を手に入れるためには島の外から輸入するか、島内で流通する黄金を買い占めるしかない。


 だが、


「九〇〇万クロック分の黄金だと……!? 大体重量は……一キロ強!? そんなものすぐに用意できるかっ!!」


 だが、契約の世界ではできないからといって無罪放免にはならない。これでは罪どころか詰みだ。


(……いや、待てよ。奴が契約し、入金したのは昨日のはず。昨日の今日で、それも全額分の黄金を引き出すか? ……謀ったな、天蓋翔!?)


 深呼吸。


 火を噴く思考を一度落ち着かせる。


 焦るな、まだ諦めるには早すぎる。


(コンテナの消失は奴の仕業に違いない。なら奴にことのあらまし訊けばいい。この際多少強引な手段を使ってでもコンテナの所在を聞き出す……!!)


 

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