第15話 対峙
放課後。
蓮也はコンテナの捜索、コンテナ消失の原因究明を一度中断し、翔の元へ来ていた。
だが、不良生徒のように翔の教室へ殴り込みに行くわけにもいかない。それではあまりに目立ち過ぎる。
したがって蓮也は玄関前の廊下にいた。ここならすれ違うこともない。
そして、一人の女子生徒と共に奴が現れた。その女子生徒には見覚えがあった。昨日の喫茶店で、奴と一緒にいた。
蓮也は急く気持ちを無理に押さえつける。
思考に保冷剤を入れる。
深呼吸し、肺に新鮮な空気を取り込んだ。
落ち着け。冷静に。喧嘩腰になっても事態は好転しない。それどころか悪化する。
ならば落ち着け。
それに奴が犯人だと決まったわけではない。
あくまで可能性の一つだ。先入観を捨てろ。
「やあ、翔くん。契約の件で話があるんだが、少しいいかい?」
対して翔は憎たらしいくらいの笑顔で答える。
「ええ、いいですよ。……ここでは人目につくので、もう少し静かなところに行きましょう」
蓮也は翔をあらかじめ予約しておいた第五学区のホテルに招いた。蓮也が仕事用に使っている部屋とは別の部屋である。
「ルームサービスでも頼むかい? 僕が奢るからなんでも頼んでくれて構わないよ。呼んだのは僕だからね、遠慮はしないで」
部屋に置かれた円机。それを挟んで、蓮也と翔・咲良は対峙していた。
当然かのようについてきている咲良はおそらく好奇心に負けたのだろう。
「いや、大丈夫ですよ。だってあなた今、人に奢れるほど余裕がないじゃないですか」
翔がニヤリと悪魔的な笑みを浮かべてそう切り返した。
その笑みで蓮也は、奴が今回の犯人であることを確信する。
よって柔らかい態度も、気さくな言葉遣いも、張り付けたような優しい笑顔も全て捨てる。
空気が変わる。
もし雰囲気に色があるなら、蓮也の周りのそれは急速にどす黒く変わっているだろう。
「やっぱり、お前が犯人か。……もう腹の探り合いはやめようぜ。……今白状すれば痛い目は見ないで済む。本当のことを言え。コンテナはどこだ?」
対してだ。
翔はとった行動は、怯むでも怯えるでも、まして挑発や対抗でもなかった。ただ腹を抱えて笑っていた。
その行動に、蓮也は不快感を表すより先に奴の神経を疑った。こいつは状況がわかっていないのだろうか?
「ははははははハハハハハハっ!!! まさかここまでバカとは思わなかった。コンテナはどこだ? そんなどストレートに訊いたら、それはコンテナをまだ探し出せていないと教えているようなもんだろ。バカなんじゃねーの!? 普通そういうのは隠しておくもんなんだよっ!?」
どうやら、一年だからと甘く見ていたらしい。
もう全力でこいつを潰す。
蓮也は携帯端末を取り出し、どこかに電話をかけた。
するとすぐ変化があった。
電話相手が電話に出るよりも先に、部屋にスーツとサングラスをした屈強な男たちがぞろぞろと入って来て、蓮也、翔、咲良を取り囲む。
おそらく隣の部屋に待機していた彼らが、蓮也のコールで来たのだろう。
「こちとら切迫詰まってんだ。多少痛い目を見てもらうぞ。……最後のチャンスだ。コンテナはどこだ?」
椅子に足を組み座る蓮也が人を殺せるほどの眼光とともにそう訊く。
だが、翔は飄々とした態度を崩さない。
「脅しにすらなってねーよ。ちゃんと『天遊島統治法』を読んだか? まあ、オツムの足りないアンタにはあれは難しすぎたか。まあ、仕方ないよ。右も左も分からん一年を鴨にしているアンタにはレベルが高すぎたな。ごめんな、センパイ?」
神経を直接炙られるような怒りが込み上げる。
ドゴッ。
蓮也は遅れて、自分が翔の胸ぐらを掴んでいることに気づいた。
ドゴッという音は、立ち上がったときに椅子が倒れた音だとやっと気付いた。
だが、それがトリガーとなった。
やっとだ。やっと翔の空気が変わる。それは蓮也なんかとは比べものにならないほどの黒。全てを染め上げる純粋な黒。夜が蓮也の黒を飲み込む。
「あ? アンタが先に手を出したんだ。これはもう戦争だゾ?」
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